紅斑には色々な呼び名がある。
多形紅斑、浮腫性紅斑、紅斑丘疹、蕁麻疹様紅斑など。
でもこれらがどう違うのかは詳しく習ったことがなく、適当に使っているのが実状である。
そこで今回は紅斑の呼び名について、皮疹の表現に一家言ある西山茂夫先生(北里大学名誉教授)の記載をまとめてみたい。
皮膚科独特の診断法がおそろかになり、特徴が失われるのは好ましくない。
赤は少なくとも4種類に、鱗屑の性質は少なくとも15種類に区別して記載されなくてはならない。
皮膚病診療 12(8): 667, 1990
紅斑性丘疹
まず紅斑性丘疹(丘疹性紅斑)という呼び名がある。
これは紅斑と丘疹の中間の皮疹とされている。
丘疹というほどは盛り上がっていないが、紅斑というには小さすぎる。
紅斑が非常に小さく、かつ盛り上がっているときは丘疹のようにみえる。これを紅斑性丘疹または丘疹性紅斑という。
皮膚病診療 35(増): 24, 2013
代表的な疾患は風疹である。
紅斑と丘疹の中間くらいの盛り上がりで、これはたとえば風疹などを想像していただければいいと思いますが、紅斑性丘疹、または丘疹性紅斑といった表現をしています。
皮膚病診療33(12): 1281, 2011
海外にはmaculopapular rash(斑状丘疹)と呼ばれる皮疹があり、これが紅斑性丘疹と同じもののようだ。
海外では斑は大きさによって2つに分類されている。
小さな斑はmacule、大きな斑はpatch。
また隆起した小さな皮疹はpapule(丘疹)と呼ぶ。
maculeとpapuleの間の、丘疹ほどではない少し隆起した皮疹がmaculopapular rash(斑状丘疹)である。
滲出性紅斑
次に滲出性紅斑という呼び名がある。
これは滲出性炎症に基づく紅斑と定義されているようだ。
滲出性紅斑は真皮の滲出性炎症に基づく赤い斑と定義される。
EDITORIAL「滲出性紅斑のスペクトラム」皮膚病診療7(6): 491, 1985
しかし滲出性炎症というのがよくわからない。
以下の記載によると、血管透過性亢進によって、真皮に液体成分が滲出した状態を言うようだ。
もし滲出の程度が非常に軽く、しかも含有する蛋白成分が乏しいときには、滲出よりは漏出と表現されるべきである、
EDITORIAL「滲出性紅斑のスペクトラム」皮膚病診療7(6): 491, 1985
滲出性紅斑は液体成分の貯留を反映して盛り上がる。
つまり浮腫状に盛り上がった紅斑を見たら滲出性紅斑の可能性が高い。
一般に平らな紅斑は浸潤性炎症を、浮腫状に盛り上がった紅斑は滲出性炎症をあらわすことが多い。
皮膚病診療 35(増): 1, 2013
さらに滲出性紅斑は、滲出の程度によっていろいろな臨床像を呈する。
しかしそれは単純な滲出性炎症ではなく、滲出とともに血管周囲にリンパ球の浸潤を伴うものが基本的な病理組織像である。
したがって滲出の程度と細胞浸潤の多寡によって、幅広い臨床像を示しうる。
EDITORIAL「滲出性紅斑のスペクトラム」皮膚病診療7(6): 491, 1985
滲出性炎症が強い場合は水疱を形成することがある。
多形滲出性紅斑の特徴的所見と言われるTarget Lesionは、滲出性炎症が強い場合に見られる所見と言ってよいだろう。
滲出性炎症の激しい時には、紅斑の上に水疱をつくることがある。
皮膚病診療 35(増): 1, 2013
膨疹と蕁麻疹様紅斑
しかし軽度の滲出性紅斑は膨疹との見分けがつきにくい。
膨疹も血管透過性亢進による滲出性の皮疹だからである。
膨疹は血管からの液体成分の滲出による皮膚の表在性、限局性の浮腫である。その形は液体を皮内に注射した状態と同じである。
皮膚病診療 35(増): 16, 2013
つまり浮腫状の紅斑を見た場合は膨疹と滲出性紅斑の2つの可能性がある。
これらは皮疹の持続時間で鑑別する。
- 4時間以内に消退→膨疹
- 4時間以上持続→滲出性紅斑
膨疹と滲出性紅斑の間には明瞭な境がない。両者は病因的には類似の反応であるから、実際上の取り扱いに差はない。発疹が4時間以内に消退するものは蕁麻疹とする。
皮膚病診療 35(増): 11, 2013
このように膨疹と鑑別がつきにくい軽度の滲出性紅斑を蕁麻疹様紅斑と呼ぶようだ。
もし滲出の程度が非常に軽く、しかも含有する蛋白成分が乏しいときには、滲出よりは漏出と表現されるべきである。このときにはリンパ球の浸潤は極めて軽微である。
このような状態は膨疹との境が明らかではなく、蕁麻疹様紅斑と呼ばれる。
EDITORIAL「滲出性紅斑のスペクトラム」皮膚病診療7(6): 491, 1985
蕁麻疹様紅斑というと「蕁麻疹様血管炎」をイメージしてしまうが、これは本来の使い方ではないようだ。
西山先生の皮膚病アトラスの記載をまとめると
- 丘疹性紅斑:小さくやや隆起する
- 滲出性紅斑:水っぽく盛り上がる
- 蕁麻疹様紅斑:浮腫性の紅斑で膨疹より長く続く
多形紅斑
それでは多形紅斑(多形滲出性紅斑)とはなんだろうか?
西山先生は「滲出性の時間的空間的分布状態」と記載されているが、よくわからない。
滲出性紅斑の多くは対称性に、いろいろな部位の皮膚に発生し、時とともに変形し、消退していく性質を有する。滲出性の時間的空間的分布状態が多形滲出性紅斑と呼ばれる。
皮膚病診療 35(増): 1, 2013
以下の記載のほうがわかりやすいだろう(西山先生の記載ではないが)。
新旧の滲出性紅斑が混在し「多形」を呈するものが多形紅斑である。
滲出性の紅斑性皮疹に丘疹や環状紅斑・小水疱・水疱などの「多形性」があり、また新旧の皮疹が混在し「多形」を呈する。
MB derma 247: 23, 2016
しかし近年は多形がない症例も多形紅斑として報告されることが多くなっているようだ。
近年は単調な浮腫性の紅斑が多発する症例に対しても多形紅斑として報告される傾向が強くなってきている。
皮膚病診療36(2): 106, 2014
薬疹の業界では、多形は関係なく「大きさが1cm以上の隆起した紅斑が全身にある」という定義も報告されている(西山先生に怒られそうだが)。
EM type: generalized macules/erythema mainly with a sizeof≥10 mm with a tendency of elevation and coalescenceby visual inspection
J Dermatol. 47(2): 169, 2020
浮腫性紅斑
さらに浮腫性紅斑という名称もある。
水疱性類天疱瘡のガイドラインには、こう記載されている。
臨床的には,略全身の皮膚に多発する瘙痒を伴う浮腫性紅斑と緊満性水疱を特徴とする。
ここまでの内容からは、浮腫性紅斑は「血管透過性の亢進によって盛り上がった紅斑」と考えていいだろう。
浮腫性紅斑には滲出性紅斑と膨疹が含まれている。
ただし西山先生によると、浮腫性紅斑は正式な用語ではないらしい。
浮腫性紅斑という表現を使う人に対して、かなり辛辣な意見を言われている。
紅斑でも浮腫性紅斑とか浸潤性紅斑などという変わった表現が幅をきかせている。すなわち本来の皮膚科学的記載が内科医の抽象的記述と同程度になり下がっている。
EDITORIAL「皮膚科診断学再び」皮膚病診療15(5): 373, 1993
たぶん「浮腫状の紅斑」と言うのが正しいのだろう。
まとめ
今回は紅斑の色々についてまとめてみた。
皮膚科は皮疹の表現にこだわるわりには、定義がよく分からないことも多い。
呼び名に異常にこだわることに意味は感じないが、一般教養として知っておいてもいいかもしれない。
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