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気合で治すイボの話【信じるものは救われる?】

 

「病気は気合で治す」なんて医者が言ったら笑われるだろう。

しかし実際の臨床現場では、意外にも気合が大事になることもある。

 

精神科医、春日武彦先生の著書に「気合で治す」ことについての記載がある。

 

医療の現場では非科学的な処方や手技が行われていることもある。

EBMの観点では避けるべきことだが、それによって意外とよい結果が出ることも多いという。

医療の現場では非科学的とも映りかねない処方や手技をおこなっていることもないわけではない。

 

それは医師の経験や手ごたえが自信となって患者に伝わるから。

逆に正しい方針を立てても、自信が持てなかったら対応が中途半端になり失敗することが多いようだ。

しかし自分なりの経験や手ごたえに裏付けられていると、医療者としての自信や信念となって患者へ提示されることとなる。

すなわち気合が入っているので、意外にも良い結果が出やすい。

この事実をもっとくだけた言葉で言えば「気合で治す」ということになるだろう。

 

シニカルな春日先生だが、意外にも気合は大切だと述べられている。

これを皮膚科で一番実感できるのはイボ(尋常性疣贅)の治療である。

イボの治療では暗示療法が有効なことがある。

今時こんな胡散臭い医療が行われているという事実は衝撃だが、その詳細を解説する。

 

イボの治療法

 

「暗示療法」と聞くと何だかカルトな印象を受ける。

しかし「暗示療法」は教科書にも記載されている、れっきとした治療法である。

尋常性疣贅の治療

冷凍療法、ブレオマイシン、グルタールアルデヒド、ポドフィリン、IFN-β、ヨクイニン、グリチルリチン、エトレチネート、暗示療法

(皮膚科学)

 

イボ(尋常性疣贅)はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染症で、現在HPVに対して直接効果のある薬剤は存在しない。

そのためイボの治療法には決定的なものがないのが現状である。

ところがイボは自然に治ってしまうこともある。

疣贅は3か月で30%、2年間で65~78%が自然消退する。

(ウイルス性疾患 性感染症 (最新皮膚科学大系))

 

これは自己免疫によってHPVが排除されるためと考えられている。

そのためイボを治すための方法は「なんとかして自己免疫を惹起すること」が主軸となるわけだ。液体窒素だったりヨクイニンだったり。

 

そして自己免疫を惹起する方法の一つとして暗示療法がある。

自然消退は「意味のない薬」や「おまじない」でも起こりうる。

自然消退は医師から処方された意味のない薬を飲んだり、塗ったり、あるいはおまじないや近所のいぼ地蔵にお参りするといった心理的な暗示によっても引き起こされる。

(疣贅(いぼ)のみかた,治療のしかた)

 

この理由は、暗示が契機となり「それまでは十分な反応に至らなかったHPVに対する免疫反応が強化される」からだと考えられている。

暗示効果で免疫力が高まるということである。

 

さらにもっと極端に書かれている場合もある。

いろいろな治療法とプラセボや暗示療法との効果には有意差がなかったという論文である。

プラセボや暗示療法を含め、いずれの治療方法でもある程度の治癒率はえられるが有意差はない。

(日本皮膚科学会雑誌95(9)p985 1985)

 

ここまでくるとインチキ医療だとバカにできないところがある。

古い論文だが1985年から30年間治療法は変わっていない。

30年も治療が進歩していないのは皮膚科くらいかもしれない。

 

暗示を有効にかけるために

 

有意差のない治療法でも、効果があると信じた医師が行えば効果がでる場合があるようだ。

ある薬剤が疣贅に有効ではないかと考えた医師が治療を行うと治癒率は80~90%を越えることも多い。

しかし大規模な臨床試験を行うと、まったく有意差がないという結果に終わる。こうした効果の大部分は暗示によるものであろう。

(カラーアトラス疣贅治療考)

 

他にも大病院の医師に診てもらったという患者の期待効果で治療効果が上がる可能性も指摘されている。

 

また暗示は患者にだけでなく自分にもかけなければならない。

「自分を鼓舞する」ことによって治療効果が増すのだという。

難治な疣贅は、「このままずっと治せないのではないか」と弱気になると、にわかに勢いづいてくるように思えます。

難治例では「必ず治る、必ず治す」と自らを鼓舞しながら治療するとよいことを覚えました。

(疣贅(いぼ)のみかた,治療のしかた)

 

自信のなさが患者に伝わってしまうと暗示効果が落ちてしまうということだろう。

まさに気合で治す。精神論も意外と大事だということだ。

こういう科学的ではない部分を許容できるかどうかが、皮膚科を面白いと思うかどうかの試金石になるのかもしれない。

一歩間違えばカルトだけど。

 

自分はこういうのは苦手で、どうしても患者に「もしかしたら効くかもしれないからやってみましょう」と説明してしまう。

 

イボの治療は今後はどうなるのか

 

コンジローマではワクチンやベセルナなど新しい治療が導入されているけど、尋常性疣贅にはまだ出てきていない。

アトピーや乾癬などに新しい治療法が次々と出てくるので、イボの治療にも画期的なものが出てきてほしいと思う。

 

乾癬の新しい治療について>>道端アンジェリカと乾癬とお金の話

 

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