皮膚科診断は直観的になりがちである。
直観的になんとなく湿疹と診断して、とりあえずステロイド外用…という対応が多いのではないだろうか。
その理由は確定診断できる検査がなく、臨床症状のみで診断しなければならないからである。
こういう診断法を「臨床診断」と呼ぶが、皮膚科医にとっては馴染みが薄い概念である。
しかし診断についてきちんと言語化しておくことは、皮膚科医にとっても重要なのではないか。
そこで今回は臨床診断について書いてみる。
臨床診断とは
臨床診断とは臨床症状から総合的に判断すること。
代表的なのは「かぜ」の診断である。
國松淳和先生の著書から引用すると
かぜの原因ウイルスは多岐に渡るため、原因を特定することはできない。
そのため病歴や症状などから総合的に判断を行う必要がある。
かぜを診断できる検査はなく、臨床症状から総合的に判断する必要がある。
まず問診や診察によって情報を集めます。そしてそれらを総合判断してかぜらしいことを推定します。
このように臨床診断は、あくまで推定診断である。
やむなく総合判断で推測して行う診断を臨床診断と呼びます。いわば推定診断ということになります。
そして経過(数日で自然治癒する)まで含めて診断が確定する。
かぜだとはっきり診断できるのは、自然に改善した後なのだ。
そして数日たち、徐々に症状が改善に向かってきて治ったとします。このことをもってかぜと確定診断されます。
代表的な皮膚疾患である湿疹も同様に臨床診断である。
直観的に湿疹と確定診断できるわけではなく、湿疹と推測して治療を行い、ステロイドで改善することまで含めて診断が確定する。
経過まで含めて診断
このように臨床診断のポイントは「経過まで含めて診断がつく」ということ。
その重要性は他の教科書でも述べられている。
時間軸を使った診療
こちらの教科書では時間軸を使った診療と表現されている。
かぜ診療では時間軸を使った診療が非常に大切である。
かぜと暫定的に診断し、そのまま治ればかぜであり、そうでなければ軌道修正を行う。
この軌道修正のプロセスまで含めて診療が完結する。
さまざまな病原微生物による咳、鼻、喉症状を覚知し、このうちgeneral appearanceのよいものに関して「自然に治りそうだな」ということで「かぜ」と診断する。
それがそのまま本当に治れば「かぜ」だったのであり、そうでなければ軌道修正するというプラクティスは現実的である。
皮膚科でも無意識のうちに時間軸を使った診療を行っている。
まず見た目から「湿疹のようだな」ということで湿疹と診断する。
それがステロイド外用でそのまま本当に治れば湿疹だったのであり、そうでなければ軌道修正するのである。
フォローアップというオプション
岩田健太郎先生の教科書では「フォローアップというオプション」と表現されている。
日本医療最大最強の武器であるフォローアップというオプション
7~8割方かぜだなと判断した場合、まず対症療法を行う。
外来診療において、「たぶん、かぜ」、「7、8割かぜ」というケースがある。この場合は抗菌薬は出さず、対症療法で様子をみる。
もし間違っていたとしても、日本の外来アクセスはきわめて良いため、何かあった場合はすぐに再受診できる。
そのような環境込みで診療が成立している。
もし心配だったら「症状が良くならなければまた受診してください」と言うこともあるし、「来週また来てください」と頼むこともできる。
日本における日常診療では、間違えたときの「のりしろ」がある。外来へのアクセスはきわめて良く、「何か」あったら患者はすぐに再来院するか、別の医療機関に行く。
皮膚科診療においても、無意識のうちにフォローアップのオプションが組み込まれている。
皮膚疾患は症状が患者自身に見えるのが特徴である。
そのため治らなかった場合は、ほとんどの患者が自主的に再受診する。
適当にステロイドを出しているだけでも、そこで誤診が修正されるのである。
しかし別の病院を受診することが多いため、診療に対するフィードバックがなく、自分のマズさに気付けないという危険性も潜んでいる。
- 誤診が自然に修正される
- フィードバックがない
この2点から皮膚科医はヤブ医者化(自分も含めて)しやすいと言える。
まとめ
今回は臨床診断についてまとめてみた。
皮膚科は見た目一発診断と思われがちだが、見た目だけでわかることはそこまで多くはない。
ステロイドを塗って治るかどうか…というフォローまで含めて診断しているのである。
皮膚科診療はなんとなく上手くいっている場合が多い。
直観的になりがちな皮膚科診断について、このように言語化していくことは重要だと思う。
すでにヤブ医者化している自分はもう手遅れかもしれないが…。
▼誤診について▼
コメント