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皮膚科医が行う総合診療

 

最近読んで面白かった本がある。

総合診療・家庭医療を扱った「卓越したジェネラリスト診療入門」である。

 

自分のイメージする総合診療医は、内科も外科も小児科も「何でも診られる医者」。

皮膚科とは最も対極にある診療科。

そんな印象だったのだが、実際は違ったようだ。

 

一般的な医学がカバーできていない領域を診る。

つまり医学的問題だけではなく、心理的問題、社会的問題へのアプローチを行うのが総合診療・家庭医療というものらしい。

 

ウィリアム・オスラーの言葉に「医学はサイエンスであり、かつアートである」というものがある。

生物学的な科学(サイエンス)と患者に対する人間としての姿勢(アート)。

この「アート」の部分を学問にしたのが総合診療・家庭医療である。

 

病気の診断をつけて治療を行うだけでは、患者の辛さ、悩みを和らげることはできない。

この総合診療の内容は、自分が普段の診療で意識していることと重なる部分が多かった。

今回は本の内容と自分の診療を照らし合わせて考えてみる。

 

①リアシュアランス

 

総合診療で重視されるのが、心配事を軽減して患者を安心させること(リアシュアランス)。

プライマリケア医の重要な仕事は、病気があろうとなかろうと、「安心させること」「心配事を少しでも軽減すること」です。

 

これは皮膚科診療でも重要になる。

皮膚科の治療で主となるのは外用薬。

しかし外用薬を塗るのは面倒なので、患者の薬剤使用率は低い。

つまり診断して処方するだけでは、塗ってもらえない可能性が高いということである。

 

したがって治癒率を上げるためには「塗ってみよう」と思わせる必要がある。

そこで重要になるのが診療の患者満足度を上げること。

これは総合診療で用いられる手法と被る部分が多い。

 

たとえば患者に触ること。

診断のための行為というだけではなく、患者を安心させる効果も期待できる。

聴診や触診には、いわゆる手当てによる「ヒーリング」、あるいは安心させる「リアシュアランス」の働きがあるように思います。

 

それから予後の見通しをつけて伝えること。

それが安心感、満足感につながる。

プライマリケア医の臨床推論では、だいたいの予後の見通しをつけることが大切です。それが安心感・満足感につながり、医師への信頼を増すことになります。

 

自分もこれらを意識して皮膚科診療を行っている。

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②短い時間で診療を完結する

 

総合診療では、施設へのかかりやすさ(近接性)も重要である。

患者が医療にアクセスしやすい環境であること。

 

診療は一人ひとりに十分な時間をかければよいというわけではない。

診療時間が長引けば、アクセスできない患者が生じてしまう。

質を保ちつつも、できるだけ短い時間で診療を完結する必要がある。

質を保証し、かつ近接性や公平性の観点から効率的・効果的に、できるだけ短い時間で診療を完結させる必要があります。

 

そこで重要なのは、一般の人が抱きやすい解釈や不安のパターンをコレクションしておくこと。

「何を期待して来院したか」を意識することで、ムダを省き診療時間の節約することができるのである。

「今日は検査希望ですか?」とか「点滴希望ですか?」など医師に何を望んでいるのかについても、いくつかのパターンがあるので、それを使うと時間の節約になります。

 

これは多くの患者を診察する必要がある皮膚科外来でも重要なことである。

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③落としどころを探す

 

総合診療では複数の併存疾患をもつ患者を診ることが多い。

しかしそれぞれの疾患に対してベストの治療を行えばよいというわけではない。

各疾患の診療ガイドラインにおける推奨を「足し算」した治療がベストであるという認識とは、スッパリ縁を切る。

 

その理由は、それぞれの治療には通院や服薬などの負担が伴うからである。

疾患が多ければトータルの負担は大きくなり、患者のキャパシティを超えてしまう。

そこで優先順位を評価したうえで治療計画を立てる必要がある。

「どこを治療・ケアの落としどころにするか?」を探っていく

 

常にベストな治療ができるわけではない。

この「落とし所を探す」というのは総合診療に関わらず重要なスキルである。

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④家族療法と社会的処方

 

また総合診療は、患者の医学的問題と心理学的問題を解決するだけでは不十分なケースが少なくない。

社会的問題へもアプローチする必要があるようだ。

 

たとえば家族関係が患者の健康問題に影響を与えていることも多く、解決のためには家族へのアプローチ(家族療法)が必要である。

 

また孤立や孤独の問題も増えている。

孤立や孤独は健康問題に直結するが、医療の範疇だけで対処できることは少ない。

そこで地域のコミュニティとの接続(社会的処方)も必要になってくる。

 

これらは研修医のとき精神科研修で強く感じた部分。

精神疾患は患者本人へのアプローチだけでうまくいくケースは少なく、社会的問題への対応が求められた。

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個人的には家族や社会へのアプローチがしっくりこず、精神科へは進まなかった。

しかしあらゆる診療科に必要とされることである。

 

⑤バーンアウトしないこと

 

さらに患者だけでなく、医師自身のヒーリングも重要である。

家庭医は効果の実感が乏しい治療を日常的に行っている。

それがバーンアウトにつながることがあるようだ。

 

そこで重要なのは「治療した実感」をもつこと。

具体的には効果が見えやすい手技や処置などを、意識して積極的に行う。

実際に手当てすること、そして治療した感をもつ大切さを強調したい。

私がバーンアウトしていないのは、患者さんから癒しをもらう機会が多いことが最も重要だと感じています。

 

そして研究や発信などの診療以外の活動も、バーンアウトを防ぐために必要である。

学術研究や発表などがあるから臨床の仕事を続けることができる

研究や発信などの診療以外の知的活動が、ある種の癒しになっているということかもしれません。

 

日常診療がコンテンツになり、コンテンツが日常診療に繋がる。

レクチャーのネタは日々の臨床実践の中にこそあり、刻々とアップデートされていくのです。

 

外来診療がマンネリ化してつまらなく感じてしまうのは、家庭医だけではなく皮膚科医にも当てはまること。

いかに日常診療を行っていくかは重要なテーマである。

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まとめ

 

「医学はサイエンスであり、かつアートである」の「アート」の部分は精神論で語られることが多い。

患者を想う気持ちが大切、誠心誠意患者のことを想っていればうまくいく、と。

 

しかしアートの部分にも理論があるはずである。

アートを気持ちや姿勢の問題にせず、体系的にまとめようとする試みには大変同意するところである。

アートについても、曖昧なものではなく行動原則があり、ガイドラインがあるということを、できるだけ厳密かつ明快に語っています。

 

もう少し総合診療について勉強してみようと思う。

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