皮膚科医の中ではインパクトのあったニュースが、道端アンジェリカの乾癬カミングアウト。
モデルの道端アンジェリカさん(31)が、自身のインスタグラムですっぴんの写真を公開し、皮膚疾患である「乾癬(かんせん)」であることを公表した。
乾癬(尋常性乾癬)は知名度があまり高くないが、意外に多い皮膚疾患である。
少し前まではロクな治療法がなく難治なので、高額な民間療法に走る人も多かったそうだ。
道端アンジェリカも一時民間療法を行っていたらしい。
周りに相談したら東洋医学を勧められて、乾癬によく効くという自然治療法を始めました。
不規則な生活の中でこの作業を毎日続けるのは結構大変でした。それでも頑張ってやり続けたら、1カ月で症状が悪化してしまったのです。
そういうところはアトピー性皮膚炎に似ていて、「アトピーの親戚のようなもの」と言われたりもする。
しかし最近様相が変わってきている。
関節リウマチに使われる注射薬(TNFα阻害薬)が乾癬にも効果があり、しかも劇的に効くことが分かってきたのである。
副作用もあるので主に重症患者が対象になるが、治療法のない病気が多い皮膚科では画期的なことである。
道端アンジェリカも今はこの注射薬を使って治療しているそうだ。
さらに蕁麻疹やアトピーなどにも、このような新しい治療法が出てきていて、皮膚科の診療が大きく変わりつつある。
今回は皮膚科診療のパラダイムシフトと問題点について。
皮膚科の破壊的イノベーション
これまで乾癬などの皮膚疾患では、治療があまり効かないので色々な病院を転々とする患者が多かった。
そのため診療で最も重要なのは、治療ではなくコミュニケーションだった。
「薬はあまり効かないが、根気強く治療を続ければある程度コントロールはできる」と納得してもらう。
そこが皮膚科医の腕の見せどころだったわけである。
アトピーで有名な先生はさながら宗教家のようでもある。彼らのもとには熱狂的な患者が集っている。
そんな一種のカリスマ性が診療に必要不可欠だった。
しかし時代は丁寧な指導よりも、注射一本で一気に治すのが主流に変わってきつつある。
治療の上で、達人の技は必要なくなってしまう。
「皮膚科医はバカになった」と拒絶反応を示す人もいるが、自分が積み上げてきたものの価値がなくなることを恐れているようだけのようにも見える。
これはクリステンセン教授の提唱する「破壊的イノベーション」に相当する。
スマホの出現でガラケーの業界が崩壊してしまったように、新しい治療の出現でこれまでのスキルが陳腐化してしまいいつつあるのだろう。
一部の医者にとっては脅威になりうるが、患者にとっては喜ばしいことである。
次世代の皮膚科診療の問題点
しかしこれらの治療には大きな問題が存在する。
値段である。
例えばレミケードという薬の場合は1回24万円(2カ月に一度注射する)。
健康保険で支払額は3割になって8万円。
さらに高額療養費制度で金額が減って4万4千円(年収によって支払額は増減)。
高額療養費制度
1か月に支払った医療費の負担額が一定額を超えた場合に、その超えた金額が健康保険から支給される制度
これで年間の治療費は約30万円になる。
レミケードの価格と支払額
- 価格:年間150万円
- 支払額:年間26万円
いつまで続ければよいのかについてはまだデータがないので、月2万円の治療費を払い続けることができるのか。
当然、経済的な理由で治療を躊躇する人もいる。
がん治療とは異なり、直接命に関わらない皮膚疾患ではそれが顕著である。
国民皆保険制度は、国民全員が安価で質の高い医療を受けられるという建前がある。
しかし現実には、経済力によって受けられる治療に差がつく世の中になってきたのを感じている。
これが良いのか悪いのか。
我々皮膚科医は新しい時代の入り口に立っている。
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