4月から新専門医制度が始まるので「診療科選び」の話。
自分も研修医のときは、総合診療とかプライマリケアとか「何でも診られる」ということに憧れていた。
治療よりも診断に興味があったので、診断力が最も発揮されるのが総合診療科かな、と。
今回は総合診療について書いてみる。
総合診療のイメージ
総合診療というと「診断のつかない難しい患者を様々な知識と多彩な検査で診断」するというイメージ。
テレビでも総合診療を扱った番組がある。
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総合診療医は専門化が進みすぎた医療界を抜本的に変革するために生まれた新しい医師像。
しかし地域医療研修で田舎の病院に行ったときに、現実は若干異なっていることに気づいた。
総合診療の現実
その病院の内科は、消化器とか循環器とかの括りがなくて、一般内科として様々な患者を診る。
一般内科医は「何でも診られる総合診療医」そのもので、特別な存在ではなかった。
患者で一番多いのが高齢者の肺炎。入院して抗菌薬の点滴で治って退院するが、1週間後にまた肺炎で入院。
治療が功を奏さず亡くなる方もいた。
そんなことから「総合診療」の別の姿が見えてきた。
以前medtoolz先生のブログに総合診療について書かれていた。
(medtoolz先生について>>臨床で必要なことはすべてmedtoolz先生から学んだ)
地域の一般内科で「何でも診る」総合診療的な仕事をされていたときのこと。紹介されてくるのは行き場のない患者ばかりだったという。
下手に「何でも診れます」などと宣言しようものなら、いろんな病院から紹介されるのは、食事の取れなくなった高齢の寝たきり患者、行き場の無い褥瘡+発熱の患者、腎不全に心不全を合併した超高齢の患者などなど。
総合診療の研修コースは、そのうち朝から晩まで電話をかけ続けるだけの体力だとか、転院を承知させるための交渉力だとか、医学にあんまり関係ない技量が要求されるようになって、研修医は離れていった。
求められる専門性とは「この人、うちで引き取ります」の返答のみ。
これが10年くらい前だから、今はもっと高齢化が進んでいるだろう。
病棟は行き場のない高齢者であふれ、治療が終わっても家族は「もっと置いてくれ」の一点張り。あまつさえ「主訴:入院希望」の患者さんが夜中に救急車で来院することも珍しくなくなってきた。
こうなってしまうと、一般内科に求められる専門性とは「この人、うちで引き取ります」の返答のみ。もう一般内科をやる時代ではないのかもしれない。
厚労省の養成したい「総合診療医」とは、行き場のない高齢者をなんでも引き受けられる医師のこと。
そう考えると急に魅力がなくなっていった。
結局、皮膚科という狭い領域の専門家になってしまった。
高齢者診療の現在
じゃあ今は行き場のない高齢者を診ることがないかというと
- 「自宅での介護が大変で、皮疹もあるので入院させてほしい」
- 「もともと食事がとれていなくて、帯状疱疹になったから入院させてくれ」
- 「体動困難で救急搬送された高齢者。褥瘡があるから皮膚科に入院」
なんていうのを結局たくさん診ている。入院させたら当然ADLが下がる。
「入院して足腰が弱ってしまった。自宅では面倒をみられない」と家族からいわれて、転院先や施設を探してあげるまでが一連のお仕事である。
医学よりも社会福祉に興味がある人には向いているのかもしれない。
こんな現実を踏まえると、総合診療は「診断が面白い」とか「地域に必要な存在である」とかいうポジティブな側面だけじゃなくて、「ネガティブな側面をどう解決するか」も伝える必要があるんじゃないかと思う。
問題点のこじれた患者、行き場の無い患者を楽しく診るにはどういう技術が必要なのか。そこを納得させる理屈を作らないと、総合内科は絶対に広まらない。
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