ジブリ映画が「トトロ」や「ラピュタ」などの国民的アニメから、カルトなアニメに変わっていったのは「ハウルの動く城」あたりからではないだろうか。
今回は解説本「ジブリの教科書」より、ハウルの動く城の光と影について解説する。
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ハウルの動く城の感想
ハウルの影:意味がわからないストーリー
宮崎監督は「作品の説明は全部はぶいてある」と語っているそうだ。
ハウルの動く城には原作が存在して、しっかりとした設定があるのだが、映画では本来必要な説明が省かれていて話が成立していない。
例えばこれらについての説明がないと、ラストの「ハウルの心臓が戻って復活するシーン」の意味がわからない。
- ハウルとカルシファーの契約の詳細
- カルシファーがハウルの心臓を持っていた理由
- ソフィーの持つ魔力
これらを隠されたメッセージと言うのは苦しいと思う。
宮崎駿は「作りながらストーリーを考える」という手法で映画を制作する。
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鈴木敏夫(>>ジブリを10倍楽しむ鈴木敏夫の話「風に吹かれて」)のインタビューによると、制作途中でストーリーに矛盾が生じてしまったそうだ。
問題はストーリー展開でした。一時間たっても収束に向かわず、まだ立ち上がり続けている。
宮さんが僕の部屋に走ってきて、珍しくドアをバタンと閉めました。
「鈴木さん、話がまとまらないよ。どうしよう?」
これから考えると、ただ原作を消化しきれなかったと言わざるを得ない。
ハウルの動く城の原作との違い
映画のメインテーマとなるのは戦争だが、原作には戦争の記述はほとんどない。
「ハウルの動く城はイラク戦争に大きな影響を受けている」
と宮崎駿は語っており、無理やりねじ込んだ形である。
原作はみんなで協力して荒れ地の魔女と戦う話。
しかし映画は荒れ地の魔女が突然仲間になったり、戦争のテーマをねじ込んだりと行き当たりばったりで話を進めた結果、シナリオが崩壊してしまった。
崩壊の片鱗は「千と千尋の神隠し」にもあったが、ついに顕在化してしまったようだ。
>>意味が分からないけど面白い「千と千尋の神隠し」ジブリレビュー⑩
困った宮崎は鈴木敏夫のアイデアで無理やり映画を終結させた。
いろんな登場人物の話を立ち上げて、こんがらがって困ったところで、全員を登場させてうやむやにする。
解決法はそれしかないんじゃないかと思ったんです。
そのため意味不明な終わり方になってしまった。
なぜ戦争が終結したのかもよくわからない。
宮崎駿の魅力は、魔女の宅急便のように「原作を大きく改変する」ことにあるのだが、今回は不発と言わざるを得ない。
珍しい話ですよね。起承転結じゃなくて、起と承がずっと続いていますよね。
ハウルの光:動く城のデザイン
でも見どころがまったくないわけではない。
「様々な素材を寄せ集めた城なんだ。」
と宮崎が語る動く城のデザインとアニメーションは圧巻である。
フランスでは「現代のピカソだ」とまで評されたそうだ。
ありがちな城だった原作のイメージと比較すると、宮崎駿の天才っぷりがよくわかる。
作画監督、高坂希太郎はこう語っている。
ハウルの動く城がダメな人はダメなんじゃないでしょうかね。
理屈で考えて見ようとすると、たぶん途中で置いていかれてしまいますから。
理屈で見る映画ではなく、右脳を開いて見た方が面白い映画だと思います。
右脳で感じる映画。ジブリ映画は万人受けはしない方向へ進んでしまった。
しかしその反省から宮崎は子供向けの作品に着手する。
ところが…。
つづく
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