地雷女という言葉があるそうだ。
「地雷女」という言葉を聞いたことはあるだろうか。一見、無害なふりをして潜んでいながら、ひとたび接し方を間違えると爆発し、周囲の人間に大きなダメージを与える女性の通称である。
今回はそんな地雷女を扱った(?)小説「恋愛中毒」の感想。
最近ドラマ版が再放送されているようだ。
「恋愛中毒」の感想
「恋愛中毒」のあらすじ
あらすじ
夫との離婚の痛手からもう二度と他人を愛しすぎないと誓った水無月。しかし長年ファンであった作家創路と出会い、引かれていく。恋に不器用な女性の物語。
夫との離婚の痛手から、「もう二度と人を愛さない」と誓った主人公の水無月は、弁当屋で働きながら地味な生活を送っていた。
色気のないおばちゃん達に混ざって唐揚げでも売っていたほうが今の私には気は楽だった。
化粧はしないでいいし、ジーンズとエプロンで働ける。
飲み会はないし、男の人との出会いもない。なんて気が楽なんだろう。
しかしもう他人を愛さないと決めた水無月の心に、偶然出会った小説家創路が強引に踏み込んでくる。
押しに弱い水無月は、言われるがまま創路と不倫関係になってしまう。
まさかと思ったけれど、やはり私はやられてしまった。
この期に及んでもまだ実感が湧かなかった。自分の身に起こったことが信じられなかった。
創路は妻がいるにもかかわらず、何人もの愛人を囲っている自由奔放な人物。
「恋愛中毒」は恋に不器用な水無月と創路の妻、他の愛人との関わりが淡々と語られていく小説である。
以下ネタバレあり
▼ネタバレなしの感想はこちら▼
>>【本格ミステリーに飽きた人へ】ちょっと変わったミステリー風小説おすすめ3選
「恋愛中毒」のネタバレ
水無月は他の愛人たちをうまく懐柔して、創路の一番になることを画策する。
押しに弱く、言われるがままになっていると思われたが、それは計算された行動だった。
水無月の印象は「意外としたたかな女」というものに変わっていく。
「創路を徹底的に甘やかすことで、自分の存在感を高め必要不可欠な存在になる」ことが水無月の作戦だったのだ。
一から十まで先生の言うことを聞けるのは私だけだ。
先生の言うことを何でも聞いてきたのは先生を甘やかしたかったからだ。
甘やかして甘やかして、私がいなければ何もできない男に先生をしたかったからだ。
恋愛にはこういうパワーゲームの要素もあるよなあ…。
なんとなく思い当たるところもある。
物語が終盤になってくると、さらに雲行きが怪しくなってくる。
そして夫との離婚の原因が「夫の愛人に対するストーカー行為」だったという衝撃の事実が明らかになる。
私がしたことは一から十まで犯罪なのだそうだ。逮捕された時に警察の人にそう言われた。とにかく思いつくかぎりのいやがらせをしたことは覚えている。
懲役一年、執行猶予三年というのが私の受けた罰だった。
反省したふりをして、心の奥底では悪いのは私だけだろうかと釈然としない思いでいっぱいだった。
恋に不器用ってそういう意味だったのね・・。
しかもまったく反省していないじゃないか。
ラストでは創路の娘を監禁した上に、元夫へのストーカー行為で実刑判決をくらい投獄されてしまう。
その様子も淡々と描かれるので恐怖が増す。
決めたはずのことを私は破った。他人を愛するくらいなら自分自身を愛するように。
かつてそう強く決心したはずだったのに私は同じ過ちを繰り返した。
今度こそ私は本当に実刑をくらった。
私は何も考えたくなかった、反省なんかしたくなかった。
実刑をくらっても、やはり反省していない。水無月は今後も同じことを繰り返すだろう。
この物語の本当の構図が明らかになった時は衝撃を受けた。
「水無月さん、頭がおかしいんじゃないの?」
「やっと分かったのね」
恋に不器用な女性の姿が淡々と描かれる小説だと思っていたら、ヤバい女性の活動日記だったのである。
付き合った女がメンヘラだった…というような驚きをリアルに味わわせてくれる。
ラストの後の解説まで含めて一つの作品なので、解説もしっかり読むのがおすすめ。
ストーカー女につきまとわれる井口が嬉しいわけないのだが、水無月の目から見ると嬉しそうに見えてしまう。
疲れた声で、でもほんのりどこか嬉しそうに彼は言った。
この物語がミステリーで言うところの「信頼できない語り手」であったことがわかる。
世界観がひっくり返る叙述トリック。
ミステリーとしても優れた作品なのである。
>>【100冊から選んだ最高傑作】絶対読むべきおすすめミステリーランキング10
「恋愛中毒」の怖さ
読んでいる途中までは、水無月は「冷静な観察眼を持った地味目の女性」だと思っていたが、実はとんでもないストーカー女だった。
私は荻原に恋をしていたわけではなかった。なのに寝てしまった瞬間、私の中に何かが芽生えた。
それからというもの私は毎日のように彼の家へ電話をし、避けられていることを感じると駅や道端で待ち伏せをした。
いかに冷静でイカレてるかが理解できる(ハンター×ハンターより)。
ネットの感想を読んでみると、水無月に共感する女性は意外と多いようだ。
- 彼女の考え方や行動に恐怖しながらも、どこか共感や同情をおぼえるのはなぜなのか
- 思ったよりも身につまされる話だった
- 自分と水無月がふっと交差する感覚があって、なんともいえない気持ちになりました
- 「私の何が悪かったの」そんな気持ちも、白黒はっきりつけたい気持ちも痛いほどわかる
こういう女性に手を出すことは誠に慎まなければならないが、それに気づけるのかまったく自信はない。
水無月の正体を見抜くことができるか?
日常に潜む地雷女を知る上で避けては通れない(?)小説である。
地雷女がわかる作品たち
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