最近かぜの診療についての本を読んでいると、序章の記載が目を引いた。
感冒症状のある患者を何も考えずにかぜと診断しても、ほとんどの場合は問題がない。
しかし数パーセントかぜでない患者が紛れ込んでいるという。
かぜを診られるということは、かぜ以外の疾患を見極められるということである。
かぜなんて誰にでも診られると思われがちですが、かぜを診られるということは、すなわちかぜ以外の疾患を見きわめられることにほかなりません。
同様のことは岩田健太郎先生の著書でも述べられている。
コモンな病気を診ることができるとは、地雷を踏まない能力があってはじめて担保される。
コモンな病気を診ることができるとは、恐ろしいまれな病気にさらされて健全な免疫をつけ、地雷を踏まない能力があってはじめて担保されるのである。
これは皮膚科における湿疹と通じるところがある。
皮膚科の患者のほとんどが湿疹なので、ステロイド軟膏を出しているだけでほとんど問題はないはずだ。
しかし湿疹に見えて湿疹ではない患者が一定の割合で紛れ込んでくる。
薬疹だったり真菌感染症だったり、時には菌状息肉症だったり。
かぜについての記載は皮膚科だったらこういうふうに言えると思う。
湿疹なんて誰にでも診られると思われがちですが、湿疹を診られるということは、すなわち湿疹以外の疾患を見きわめられることにほかなりません。
湿疹を見極めるための診断力を向上させるためにはどうしたらよいだろうか。
直観的診断力を磨く方法
診断のプロセスは2つの要素で構成されるという。
- 直感的診断法
- 分析的診断法
「直感的診断法」はパターン認識による診断法で、スピードは速いが診断エラーの可能性がある。
「分析診断法」は論理的・分析的に詰めていく診断法で、見落としは少ないが時間がかかる。
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皮膚科では直感的診断法が占める割合が大きい。
直感的診断力を磨く方法は3つあるという。
- たくさん症例をみる
- 違和感を大事にする
- 想起した疾患を論理的に検証する
1. たくさんの症例をみる
直感力を磨く方法としてとにかくたくさんの症例を見ることが推奨されることが多い。
1つの疾患を100症例という基準が示されることもある。
先輩が「同じ症例を100例診ると見えてくるものがある」と助言してくださったのが心の支えになりました。
その先輩がおっしゃったとおり、臨床現場で軽症から重症例まで、幅広い症例を経験したことが大きな財産となりました。
秀道広先生 Dermatologia Vol.7(科研製薬)
大事なのは自分の中に「疾患の正常像」を作ること。
かつてmedtoolz先生のブログ(>>臨床で必要なことはすべてmedtoolz先生から学んだ)にも書かれていた。
独立して一般内科などをやるようになると、一番大切になってくるのが「正常ってなんだっけ?」という感覚。
最初にやらなくちゃならないのが、自分の頭の中に「正常値」を作ること。
「この人はいつもの経過から外れている」という読みだけは、いくら論文を読んでも、あるいは「興味深い症例」をいくら見た経験があってもなかなか身につかない。
数をこなしてそれぞれの病気の普通がわかれば、イレギュラーな経過に気づくことができる。
つまり違和感を持つことができる。
2. 違和感を大事にする
診断力強化のために、「いつもと何かが違う」という違和感を持つことが大事だという。
違和感を覚えたら、なぜ違和感があるのかを追求する。それによりパターン認識の能力は研ぎ澄まされる。
誰も教えてくれなかった診断学
その違和感を追求することで「疾患の正常像」がさらにはっきりしたものになる。
めずらしい病気を経験することよりも、一般的な病気をたくさん経験することの方が大切なのかもしれない。
難しい手技を何回やったとか、めずらしい症例の患者さんを何人持ったといった経験も大切なんだけど、そうした機会が少ない施設にいったとしても、そこで得られるものというのはきっとある。
それは案外、難しい手技ができるようになることよりも大切なんじゃないかと思う。
3. 想起した疾患を論理的に検証する
また直感的に診断した後で、分析的に検討してフィードバックをすることで、直感力が磨かれるとのこと。
診断が正しかったのかを確認。検証を行わずにパターン認識をやりっぱなしにするとパターン認識の能力自体が伸びない。
誰も教えてくれなかった診断学
直感的診断と分析的診断は表裏一体。
分析的診断も学ぶことが直感的診断を磨くことにつながる。
直感的診断法と分析的診断法は、相互に補い合う車の両輪のようなものである。どちらか片方に偏ると診断能力が向上しにくくなる。
誰も教えてくれなかった診断学
皮膚科診断は直感に頼りがちだが、診断過程を論理的に分析することも大切らしい。
まとめ
直感的診断力を磨く方法
①症例をたくさん見る
たくさんの症例をみることにより自然にパターンが形成される。
②違和感を大事にする
違和感を覚えたら、なぜ違和感があるのかを追求する。それによりパターン認識の能力は研ぎ澄まされる。
③想起した疾患を論理的に検証する
診断が正しかったのかを確認。検証を行わずにパターン認識をやりっぱなしにするとパターン認識の能力自体が伸びない。
一見当たり前のようだが意識してやると効果も上がるんじゃないだろうか。
次回は診断力を上げるために使える皮膚科の教科書を紹介する。
つづく
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