今回のジブリレビューは風立ちぬ。
「もののけ姫」以来の大人向け作品だが、世間一般の評判はあまりよくはないようだ。
「ハウルの動く城」、「崖の上のポニョ」とシナリオが破綻した意味のよくわからない作品が続いたため、「風立ちぬ」も『よくわからない映画』と一括りにされている感もある。
しかし難解な映画ではあるが破綻はしておらず、考察しがいのある作品だと自分は思っている。
「風立ちぬ」のラストシーンの意味
初見時は「結局何が言いたかったんだ?」とよくわからなかった。
しかし「ファウスト伝説」について知ると映画のテーマが理解できてくる。
解説本にはカプローニはメフィストフェレスをモチーフにしているという記載がある。
野村萬斎(カプローニ役)
宮崎監督から「カプローニは二郎にとってのメフィストフェレスだ」という説明を聞き、この映画の中で描かれる夢とは危険を孕んだものを意味するのだと感じましたね。
メフィストフェレスとは6世紀ドイツの「ファウスト伝説」に登場する悪魔。
つまり「風立ちぬ」はファウスト伝説をモチーフにした映画だということがわかる。
悪魔に魂を売った博士の話である。
ファウスト伝説
ファウスト博士は悪魔メフィストフェレスと契約を交わす。
「地上のあらゆる快楽」を得たファウスト博士だったが、それは魂と引き換えの契約だった。
魂を地獄に落とそうとするメフィストフェレス。
しかしその寸前、ファウストを愛したベアトリーチェによって魂は救われる。
主人公堀越二郎は悪魔に魂を売ったファウスト博士。
二郎の夢は美しい飛行機を作ること。その夢のために戦争に加担し多くの人々の命を奪った。
ラストの草原はあの世への入り口である煉獄。
ラストシーン。カプローニと二郎は死んでいて煉獄にいるんですよ。
(風に吹かれて)
堀越二郎(ファウスト)はカプローニ(メフィストフェレス)に連れられ地獄へ向かっていた。
しかし菜穂子(ベアトリーチェ)によって二郎は救われた、というのが「風立ちぬ」のラストシーンの意味である。
「風立ちぬ」の考察
また二郎には宮崎駿自身も投影されている。
宮崎駿はアニメを作るのは好きだが、アニメを見る人は嫌っているそうだ。
アニメーションなんか、子供時代に1回観りゃいいぐらいのもんであって。そんなものを繰り返しビデオで流してるとかね、ただの人生の消費であってね。
それに加担するということは、戦争に加担しているのと同じぐらい、世の中にくだらなさを増してることなんですよ。
Cut (カット) 2013年 09月号 [雑誌]
好きな飛行機を作ることで戦争に加担してしまう葛藤を持つ二郎と同様に、アニメを作ることでアニメ好きを増やしてしまっていることに葛藤があるようだ。
それが「風立ちぬ」にも反映されている。
こうやって分析していくと、色々考えて作られている緻密な映画だということが分かってくる。
難解だけど破綻はしていない。
分析するのが面白い高畑勲寄りの作品なんだと思う。
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「風立ちぬ」の制作秘話
この映画を仕掛けたのは鈴木敏夫である。
宮崎駿は元々「崖の上のポニョ」の続編を作りたかったそうだ。
しかしポニョにあまり良い印象を持っていなかった鈴木敏夫は「戦争映画」を提案した。
「風立ちぬ」ができたばっかりのときについ口が滑っちゃうんですよ。僕は「ポニョ」は嫌だったって。
(風に吹かれて)
「戦闘機は好きだが戦争は嫌い」な宮崎駿が戦争映画を作ると面白いんじゃないかと考えたらしい。
宮さんは何かというといつも戦闘機や戦車の絵を描いていました。その一方で「戦争反対!」と叫んできた。大矛盾ですよね。
この戦争に対する相反する感情を、何らかの形で解消するような映画を作れたら世に問う意味があるんじゃないか。
「ハウルの動く城」の失敗は、原作にはなかった戦争シーンを無理やり追加してシナリオが崩壊したことにあると思う。
しかし「風立ちぬ」ではシナリオが比較的シンプルにまとまった。
肝心のゼロ戦が登場するシーンはわずか数十秒しかない。
宮崎駿は戦闘シーンが大好きだが、好戦的な戦争映画は作れない。そういう制約が良い方向に作用したように思う。
「得意技を封じられる時、作家は往々にして傑作をモノにする。」
宮崎駿が戦争を題材にどういう映画を作るのか。
戦闘シーンは宮さんの得意技。まさか今度の映画で好戦的な映画は作るわけにはゆかない。
得意技を封じられる時、作家は往々にして傑作をモノにする。
「崖の上のポニョ」で終わったかのように見えた宮崎駿だったが「風立ちぬ」で復活した。
ポニョ2を作っていたら駄作になっていた可能性も高い。
鈴木敏夫に関しては「ジブリをダメにした」など批判的な意見もあるが、「風立ちぬ」では非常に良い働きをしたと思っている。
現在最新作を制作中とのことでどうなるか楽しみである(完成しなかもしれないが)。
次回のジブリレビューは高畑勲監督の火垂るの墓
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