皮膚症状はないが陰部や口腔内の痛みを訴えて皮膚科を受診する患者がいる。
たいていそれまでに色々な科を受診しており、検査をしても何の異常もない。
婦人科や歯科を受診するように勧めるが、「うちじゃないから皮膚科に行け」と言われて戻ってくることも多い。
こういう症状を外陰部疼痛症や舌痛症(舌疼痛症)というそうだ。
「それは皮膚科じゃないですよという病気」第四弾ではこれらの病気について解説する。
▼前回の記事▼
皮膚感覚異常とは
外陰部疼痛症や舌痛症は「皮膚感覚異常」に含まれる。
皮膚感覚異常
発疹はみられないか、みられてもそれのみでは説明しにくい感覚を訴える場合であり、症状が皮膚・粘膜のみに生じたもの。
罹患部位によって口腔異常症、舌痛症、外陰部疼痛症などと呼ばれる。
皮膚科の臨床 53(6) p833-838, 2011.
- 外陰部疼痛症⇒外陰部
- 舌痛症⇒舌、口蓋、口唇、歯肉など
診断のためには器質的な疾患を除外する必要がある。
外陰部疼痛症の鑑別疾患
- 萎縮性膣炎
- 間質性膀胱炎
萎縮性膣炎
閉経に伴うエストロゲンの欠乏により、膣粘膜の萎縮、乾燥をきたす結果、膣、外陰部の乾燥感を生じる。
間質性膀胱炎
膀胱の間質が慢性的に炎症を起こし、膀胱が萎縮する。尿がたまった時の膀胱の強い痛みが特徴で尿道部、膣部、大腿などに放散する。
自分の場合外陰部疼痛症の患者は、萎縮性膣炎を疑って婦人科を受診するように勧めるが、婦人科の症状ではないと言われて戻ってくる場合が多い。
そんなときのために皮膚感覚異常について知っておく必要があるが、この疾患はとても難しい。
そもそも皮膚感覚異常の疾患概念ははっきりしておらず、色々な捉え方があるようだ。
皮膚感覚異常の捉え方
皮膚感覚異常には3つの考え方があるようだ。考え方によって微妙に治療法も異なっている。
- 不定愁訴
- 体感幻覚
- 線維筋痛症
1. 不定愁訴
心因性の不定愁訴と捉える考え方。
外陰部疼痛症は心因性のものが多く、慢性に経過する。一種の不定愁訴ともいえる。
治療は心理療法やカウンセリングが中心になるという。
2. 体感幻覚
精神科疾患と捉える考え方。
皮膚感覚異常とは体感幻覚(セネストパチー)のうち皮膚に幻覚が生じているもののことである。
皮膚科の臨床 53(6) p833-838, 2011.
体感幻覚は統合失調症、うつ病、認知症などに伴う症候性と、他の精神疾患を伴わない真性に分類される。
皮膚科を受診するのは主に他の精神疾患を伴わないものだと思うが、初老期うつ病の一症状の場合もあるそうで注意が必要である。
治療は抗うつ薬や抗精神病薬を用いる。
3. 線維筋痛症
皮膚科にはあまり馴染みがないが線維筋痛症と捉える考え方もある。
外陰部疼痛症や舌痛症を線維筋痛症の一症状とみなす考え方がある。
外陰部痛を心因性疼痛や身体表現性障害と見なさず、線維筋痛症の一症状と見なして治療を行うことが治療成績を向上させると考えている。
産婦人科治療 100(2) p238-240, 2010.
治療はプレガバリン、抗うつ薬、オピオイドなど。
皮膚感覚異常をどう扱うか
自分が診てきた患者のキャラクターをみると心因性の要素が多分にありそうではあるが、線維筋痛症と捉えた方が治療はしやすそうだ。
しかし皮膚科医が外陰部や口腔内の器質的疾患を除外するのは難しい。
さらに精神疾患の部分症状の可能性もあるため、自分で治療を行うことはためらわれる。
かといって精神科や心療内科を受診させることも難しい。
いくつもの皮膚科を渡り歩くが満足のいく治療を受けることができず、精神科や心療内科への受診を拒む傾向がある。
皮膚科の臨床 53(6) p833-838, 2011.
中には積極的に抗うつ薬や抗精神病薬を使って治療を行っている皮膚科医もいるようだ。
通常の皮膚科的治療ではこれらの症状は軽快せず、ドクターショッピングを繰り返す。
治療をとしては抗不安薬、抗うつ薬や抗精神病薬が必要となる。ぜひ積極的にこれらの治療を取り入れて医療の狭間に取り残された患者を救っていただきたい。
皮膚科の臨床 53(6) p833-838, 2011.
一応これらのことを知っておいたら対応はしやすいかもしれない。
つづく
▼それは皮膚科じゃないですよという病気▼
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