ミステリーベスト10のネタバレ感想。今回は泡坂妻夫の「妖女のねむり」。
泡坂妻夫の作品の中ではマイナーだが、この小説の凄さは、まったく関連がなさそうな様々な出来事が最後にすべてつながる構成の妙。
トリックやどんでん返しはないが、大量に張られた伏線の怒涛の回収を楽しむミステリーである。
とても読みやすい小説だけど話がものすごく複雑に入り組んでいて、これまでのミステリーネタバレ感想の中で一番まとめるのが大変だった。
「妖女のねむり」のあらすじ
物語の始まりは主人公・柱田真一がアルバイト中に見つけた樋口一葉の未発表原稿。
あらすじ①
柱田真一は廃品回収のアルバイト中に、古雑誌の中から樋口一葉の未発表原稿を見つける。
戦前若い芸術家が集まっていた「静明塾」が原稿の出元であることをつきとめた真一は、諏訪へ向かう。
原稿の調査へ向かう途中で、真一は輪廻転生を信じる見覚えのある女性・麻芸と出会う。
あらすじ②
諏訪への道中、見覚えのある女性・長谷屋麻芸に出会う。
真一は彼女から、「自分たちは結ばれることなく死んでいった恋人たちの生まれ変わりである」と告げられる。
物語の軸は3つ。
- 樋口一葉の未発表原稿
- 2人の男女の輪廻転生
- 22年前の平吹貢一郎と西原牧湖の死亡事件
500年前の運命に導かれた2人の男女の恋愛が描かれつつ、一見関係なさそうな別々の話が最終的に一つにつながっていく。
以下ネタバレあり。
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「妖女のねむり」の3つの謎
1. 輪廻転生の謎
真一と麻芸の運命は15世紀から始まっている。
15世紀 ジュリアーノ シモネッタ
↓
22年前 平吹貢一郎 西原牧湖
↓
現在 柱田真一 長谷屋麻芸
胡散臭い話だが、次々に示される様々な記憶や事実が輪廻転生の強固な裏付けとなる。
■真一
- 麻芸に見覚えがある(p39)
- シモネッタの肖像画に見覚えがある(p88)
■麻芸
- 額の3つのほくろ
- 自分に似ているシモネッタの肖像画(p84)
- シモネッタの肖像画に似ている牧湖(p91)
- 牧湖の着ていた服を知っている(p107)
- 牧湖の出身地の風景を知っている(p55)
- 霊媒師・黒光の前世見(p160)
これらの多くの事実によって、いつのまにか二人の生まれ変わりが信憑性のあるものになっていく。
2. 平吹貢一郎と西原牧湖の死亡事件の謎
物語のもう一つの軸は22年前の平吹貢一郎と西原牧湖の死亡事件。
公には平吹の自殺とされていた事件だが、2人の心中であったことが明らかになる(p117)。
一緒に死亡していた西原牧湖は、運び出され別の場所に埋葬された。
死体を運び出したのは、牧湖の父・康介と平吹の同僚・替手の2人。
また死んだ平吹の部屋からは何故か北斎の絵画が見つかっている(p104)。
3. 樋口一葉との接点
これらの謎と樋口一葉の未発表原稿との接点は古美術である。
- 樋口一葉の原稿
- シモネッタの肖像画
- 平吹の部屋から見つかった北斎の絵画
中盤までは様々な謎が提示されつつも、幻想的な雰囲気で物語が進んでいく。
しかし麻芸が殺害されてしまうことにより、物語は一気に現実に引き戻される。
そしてすべての謎が解体され現実的な解決が示されていく。
読んでいてその鮮やかさには衝撃を受けた。
これらがどうつながっていくのか。
「妖女のねむり」ネタバレ解説
1. 輪廻転生の謎
真一が麻芸に見覚えがある理由は、麻芸が週刊誌のグラビアに出ていたから(p8)。
騙されてグラビアの撮影をしたことがあると、麻芸自身が語っている(p62)。
一方、麻芸が牧湖に似ていて幼少時の記憶がある理由は、牧湖の母親・富久江によって牧湖の身代わりとして育てられたから。
富久江は牧湖の死を認められず、転生すると信じていた。
まず富久江は産院に勤め、牧湖に似た麻芸を見つける(p335)。
家政婦として家庭に入り込み、牧湖の服を着せたり、出身地へ連れて行ったりして牧湖の身代わりとして育てた(p337)。
さらに麻芸の額に入れ墨を入れ、牧湖と同じほくろのように見せた(p339)。
つまり人為的な転生であった。
また黒光の霊媒はインチキであったことも明らかになる(p223)。
しかしシモネッタと似ている理由はまだわからない。
2. 平吹貢一郎の死亡事件の謎
平吹の死亡事件は、本当は自殺ではなく牧湖の母・富久江の殺人だった。
牧湖は富久江との関係を断つため、自殺を偽装し逃亡した(p303)。
牧湖は生きており、現在も静明塾で暮らしている。
これで輪廻転生は存在しないことがはっきりする。
牧湖の父・康介はかつて平吹、替手と協力し贋作を作っていた。
平吹の部屋から見つかった北斎の絵画は康介の描いた贋作だった(p297)。
贋作作成の弱みがあった替手は、康介から頼まれ牧湖の偽装を手伝った。
また真一は中学生の頃、諏訪の山中で遭難した際に牧湖と出会っていた(p74)。
そのため牧湖に似ている肖像画にも見覚えがあった。
3. 樋口一葉の未発表原稿との接点
これらの接点は静明塾。
静明塾は、輪廻転生を信じる人たちが過去の人物になり切って作品を作る塾だった(p275)。
樋口一葉の原稿は静明塾で作られた贋作。
シモネッタの肖像画も静明塾で牧湖をモデルに描かれた贋作である(p284)。
そのため牧湖と似ており、額のほくろも描かれていた。
またシモネッタを描いた平井邦彦は牧湖の本当の父親。牧湖の父は康介ではなかった(p293)。
肖像画は静明塾に保管されていたが、替手が盗み出し公開した(p328)。
これがマスコミに報道され、シモネッタの肖像画をみた麻芸は輪廻転生を信じるようになった。
麻芸と替手は序盤で遭遇している(p87)。
また霊媒師・黒光も静明塾出身で牧湖と知り合いだった(p285)。
4. 最後の謎
最後に残った謎は麻芸を殺した犯人が誰なのかということ。
富久江は麻芸を牧湖の生まれ変わりとして育てていたが、牧湖が生きていたことを知り、必要なくなってしまった。
そのため麻芸の店にウエイトレスとして侵入し殺害した(p174)。
ということで、すべてまとめると以下の通りでかなり複雑。
まとめ
すべての謎が現実的に解決されるという構成の妙。
1ページ目の一番最初から伏線が張られていたことに衝撃を受けた。
京極夏彦の「絡新婦の理」も大量の伏線があるが、如何せん分量が多すぎる。
適度な分量でこれだけの伏線を楽しめるミステリー小説は少ない。
泡坂妻夫のミステリーの中では一番好きな作品である。
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