「医療」という商品の価値には2つの側面がある。
- 病気を治すという確実な医療の要素
- サービスをしてほしいという、サービス業本来の要素
特にクリニックを開業するとなると、サービス業の要素が重要になる。
しかし大学で習う「患者さんの気持ちに寄り添いましょう」「患者さんの話をよく聞きましょう」といった精神論は、現場では使い物にならない。
精神科医・春日武彦先生は傾聴について以下のように語っている。
教科書では傾聴の重要性が強調されているが、実際にはそんなに長く患者の話は聴いていられない。
教科書を読むと「傾聴」という言葉が強調されている。全身全霊を込めて患者の話を聴くことが重要であると述べられている。
だが精神科医は、そんなに長く患者の話を聴いていられない。平均で5分程度であろう。
精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)
短時間でも患者に満足感をもたらす技術あってこその名医、とのことである。
短時間でもその範囲で患者に満足感をもたらす技量を持ってこその名医であるといった発想も成り立つだろう。
精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)
要するに患者満足とは、患者を思うの気持ちの問題ではなく、テクニックだということ。
では実際にどのようなテクニックがあるのか。
最近クリニック開業の勉強のために本を読んでいるが、その中に接客のテクニックが書かれている本があったので紹介する。
演出力の大切さ
患者には医者の腕の良さはわからない。
つまりどんな名医でもそれが患者に伝わらなければ、集患はできない。
歯科の世界でも、医師の腕の良さと患者の満足度には乖離があるのだという。
丁寧に治療すればするほど痛い思いをさせてしまう一方、適当な治療をすれば痛みもなく早く終わる。
そのため適当な治療をしている歯科の方が、評判が良かったりもするらしい。
患者と歯科医が抱いている腕の良さには大きなギャップがあるのです。
真面目に丁寧に治療をすればするほど時間もかかりますし、痛い思いをさせてしまうものです。すると「あそこの治療は痛いし、時間もかかる。下手な歯科医だ」と患者に嫌がられてしまうのです。
丁寧な治療をしながら患者の満足度を高めるためには「演出力」が重要になるそうだ。
丁寧な治療をするためには、時間をかけて、時には痛みを我慢してもらう必要もあります。そのためには患者さんに対してこの医院がいかによい医院かということを伝えるため「演出」が必要になります。
「よくわからないけど、先生がちゃんと治療してくれていることは、理解できた」と納得してもらうことは、説明に演出を加えることで可能になるのです。
歯科医院が流行る条件
1に立地
2に演出力
3、4がなくて
5に腕
小さなテクニックだが、とても重要なことだと感じた。
演出①専門書を見せて説明せよ
専門書やレントゲン写真を見せて説明することは、意外と効果があるのだという。
ポイントは専門書をそのまま見せることです。自分で要約したものを作って見せるよりも、そのまま専門書を見せた方が、信ぴょう性があるのです。
内容は患者には理解できないと思われるが、難しそうな本を見せることで「よくわからないけど、きちんと治療してくれてるんだな」という安心感を与えることができるそうだ。
またレントゲン写真を見せて解説することも大切です。
もちろん、患者はレントゲン写真を見せてもよく分からないでしょう。しかし、あえてレントゲン写真を見せることで「よくわからないけど、きちんと治療してくれてるんだな」という安心感や信頼感を抱いてもらえるのです。
理解できなくても、理解できた気にさせる。そんな演出が患者の心をつかむ。
どうせ見せてもわからないだろうと思って見せないことも多いが、理解できるかどうかはあまり問題ではないらしい。
演出②大げさなリアクション
大げさなリアクションをとることで患者の満足度を上げることができるそうだ。
患者が求めているのは少し大げさな反応。患者の痛みには大いに共感してみせる。
患者が求めているのは少し大げさな反応です。本当にひどくなくても、患者の痛みに大げさにリアクションしてみせることで、患者を喜ばせることができるのです。
また処置が思ったようにいかなくても考え込むしぐさを見せてはいけない。
大げさにオッケーと言うことで患者を安心させられる。
歯を削り、かぶせや銀歯の型取りをしている間、患者は喋ることもできずにじっと待っていなければいけません。この間、患者は少しばかり不安な気持ちになってしまいます。
歯科医師としては、いい型を取ることにこだわりがあります。そのため型を外したあとは考え込むしぐさを患者に見せてしまうことがあります。
大げさにひと言「オッケーです!」と言った方がこの場合は伝わるのです。
演出③笑顔でクレームを撲滅せよ
患者の怒りも笑顔を見せることで治めることができる場合がある。
私は患者が診察室に入ってくるときには「こんにちは」、出て行くときには「お大事にしてくださいね」と、マスクを取って、にこっと笑ってみせます。
笑顔というのは不思議なものです。怒ってやってくる患者も私がにこっと笑って見せると、それ以上はあまり怒りません。また、とても痛い治療をしたあとでも、最後にわたしがにこっと笑って見せると、患者も痛いながらもにこっと笑ってくれるのです。
笑顔を見せることは大事なことです。
ピンチのときでも笑っていられる。難しいけど心がけたい。
【関連】ピンチの時ほど笑顔が大事 【書評】「この世でいちばん大事な「カネ」の話」
演出④クリニックの外観
医院の外観も演出上、重要な要素だという。
守るべき原則は「待合室に患者さんがいるということを外から見える」ようにすること。
あえて予約を集中させ、混んでいる医院を演出することも一つの手。
守るべき原則が一つだけあります。それは「待合室に患者さんがいるということを外から見える」ようにしておくことです。
待合室をガランとさせるな。
一時に予約を集中させました。これによりオープン当初から「混んでいる歯科医院」を演出することになるのです。
番外編 撤退戦
一つの土地に一蓮托生ではリスクが高い。
万が一失敗した時の撤退についても、あらかじめ考えておく必要があるという。
じつは戦争で大事なのは撤退戦です。
どうしても患者が来ない場合の一つの目安は、厳しいようですが半年です。半年でだめなら、限界で2年だと私は思っています。
そして「ここではだめだ。別の場所に移ろう」という判断を下すべきです。
戦争で重要なのは撤退戦。
多額の借金を抱えて撤退は考えたくもないが…。
その観点では初期投資、固定費を抑えるスモール起業が望ましいのかもしれない。
まとめ
昔はバカにしていたが、経験を重ねるにつれて演出力の重要性を感じることも多い。
大学で習う「患者さんの気持ちに寄り添いましょう」といったキレイごとは現場では使い物にならない。
medtoolz先生は傾聴する時間と患者の満足度は比例しないと語っている。
自分の外来は評判がいい。患者さんからも「あの人はすごくよく話を聞いてくれる」なんて話されているらしい。
でもうちのクリニックでは、患者さん当たりの外来時間は自分が一番短い。
傾聴する時間と満足度とは相関しない
患者満足はテクニックという側面が多分にある。
意識して磨いていきたいと思う。
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