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「外用薬混合の可否」を皮膚科医が解説する【メリット・デメリット】

 

皮膚科医の85%が軟膏を混合して処方しているという。

でも外用薬を混合することに対しては、配合変化や細菌汚染などの問題から否定的な意見も多い。

皮膚科のお医者さんは、なんで塗り薬を混ぜたがるのだろう?

オリジナルのレシピによる他の皮膚科との差別化を図り、患者を取り込む作戦なのであろうか。

重ね塗りして皮膚上で混ぜたほうが、薬の劣化、変質、ムラは少ないと思われるのだが。

くすりの勉強 -薬剤師のブログ-

 

おっしゃる通りで軟膏の混合には色々な注意点もある。

  • 外用薬を希釈しても副作用は減らない
  • クリームは混合しないほうがよい(W/O型以外)
  • 液滴分散型の軟膏は混合できない

 

しかし混合には皮膚科医なりの事情もある。

今回外用薬の混合の可否について皮膚科医の観点から考えてみる。

 

混合を行う理由

 

皮膚科医へのアンケートによると混合を行う理由は主に4種類とのこと。

ステロイド外用薬の混合を行う理由

  1. コンプライアンスの向上 31.5%
  2. 副作用の軽減 25.4%
  3. 相乗効果 18.0%
  4. ほかの施設にない独自の処方 15.6%

(皮膚病診療24(4) 363-368, 2002.)

 

個人的には①コンプライアンスの向上と③相乗効果が主な理由である。

治療効果を高めるために保湿剤とステロイドを併用することは重要。

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しかし皮膚科患者の外用薬の使用率は実はとても低い。

皮膚科患者の薬の使用率は実際どれくらい?【アドヒアランス】
皮膚科ではちゃんと薬を使っていない患者が多い印象があり、それがドクターショッピングの原因にもなっている。 実際自分が軟膏を塗るときも毎日は塗らないことが多い…。 その印象が正しいのか、「患者がホントに薬を使ってい...

1種類でも塗らないのに2種類重ねてなんて塗ってくれるわけがない。

そのため混合は薬の使用率(アドヒアランス)を上げるための作戦として大事だと思う。

 

ただ注意点があって、混合には②の副作用の軽減効果はない。ここはよく理解しておかなければならない。

 

注意:希釈しても副作用は減らない

 

軟膏の中の薬効成分は飽和状態で存在している。

 

薬効成分が溶解している割合

リドメックス軟膏1/130
ロコイド軟膏1/130

(日本皮膚科学会雑誌 121(11): 2257, 2011)

 

アンテベート軟膏1/16

(薬局 64(6): 1939, 2013)

 

つまり希釈しても濃度は変わらない。

飽和水溶液に水を加えても濃度が変わらないのと理屈は一緒。

外用薬の混合の図

 

ワセリンを加えて薄めようとしても濃度は変わらないので、臨床効果には影響されないと考えられる。副作用についても同様である。

ステロイド軟膏(アンテベート)を1/4、1/16に希釈しても血管収縮反応において変化はなく、1/64の希釈で急激に低下してくることがわかっている。

(皮膚病診療 24(4) 363-368, 2002.)

 

「副作用がないように薄めたステロイド」というのは、おそらく間違っている。

 

混合で使われる薬ランキング

 

どのような薬が混合で使われているのか。それを調べたデータがある。

  1. ワセリン 24.3%
  2. ヒルドイド 19.1%
  3. 尿素製剤 18.9%
  4. 亜鉛華軟膏 14.4%

(皮膚病診療24(4) 363-368, 2002.)

ステロイド外用薬との混合で使われるのはワセリンが一番多く、その次に保湿剤(ヒルドイド、尿素)、次が亜鉛華である。

前述の理由でワセリンによる希釈は意味がない。

またヒルドイドや尿素などの保湿剤との混合も、問題になる場合がある。

 

混合の原則

 

混合するにあたって最低限のルールは理解しておくことが必要で、2つの注意点がある。

 

クリームは混合しないほうがよい(W/O型以外)

 

クリームの混合時には、乳化破壊による効果減弱や空気の混入、水の分離による細菌汚染などの問題が出てくる。

 

混合後の空気混入率

軟膏×軟膏3.0%
軟膏×クリーム28.2%

(大谷道輝 医療薬学29(1) 1-10, 2003.)

 

そのためクリームは混合しないほうがよくて、基本的に混合は「軟膏×軟膏」に限られる。

 

しかしクリームのなかには、一部W/O型という軟膏に近い性質をもつものがある(普通のクリームはO/W型)。

クリーム製剤の比較の図

O/W型 ほとんどのステロイドクリーム、ケラチナミン、ウレパール

W/O型 ヒルドイドソフト、パスタロンソフト

 

軟膏に近いW/O型であれば混合が可能である。

軟膏とクリームの混合の図

 

というわけで尿素製剤は結構使われているが、混合してはいけない組み合わせも多い。

尿素の中でも、ケラチナミン、ウレパールはO/W型なので実は混合不可。パスタロンソフトはW/O型なので可。

尿素以外に保湿で多用されるヒルドイドソフトもW/O型で混合可である。

 

軟膏との混合による水分の分離量(/10g)

混合前混合後
ウレパール(O/W型)0.40g4.40g
パスタロンソフト(W/O型)0.08g0.10g

(大谷道輝 医療薬学29(1) 1-10, 2003.)

 

液滴分散型の軟膏は混合できない

 

液滴分散型という特殊製法の軟膏は混合できない。

混合すると均一な液滴が破壊されて製剤特性が失われてしまうため、効果が低下することが予想されている。

液滴分散型軟膏

アルメタ、フルメタ、プロトピック、オキサロール

 

最近はビタミンDとステロイドの合剤がでたので少なくなったが、その前はオキサロールの混合軟膏はよくみかけていた。

 

外用薬混合の可否のまとめ

  • 外用薬を希釈しても副作用は減らない
  • クリームは混合しないほうがよい(W/O型以外)
  • 液滴分散型の軟膏は混合できない

 

皮膚科医は混合における配合変化をあまり意識していないことが多いので、結構無茶な混合薬を処方している。

特にベテランドクターのクリニックにバイトに行くと、軟膏、クリームの1:3:2混合とか、すごい処方をみかける。

ある程度ルールを守って処方する必要はあるだろう。

 

でも「混合じゃないと効かない」という患者も結構いるのは確かである(プラセボだと思うが)。

そういう人はオリジナルの混合薬をもらうために受診しているわけだから、チューブの軟膏を出されるなら違うクリニックに行ってしまうだろう。

混合の理由④「独自の処方」の大切さを感じるところである。

ステロイド外用薬の混合を行う理由

  1. コンプライアンスの向上 31.5%
  2. 副作用の軽減 25.4%
  3. 相乗効果 18.0%
  4. ほかの施設にない独自の処方 15.6%

(皮膚病診療24(4) 363-368, 2002.)

 

混合も一概に否定はできないところがあると思う。

外用薬の使用率を高めることが名医への近道である。

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