「おへそが腫れた」といって皮膚科を受診する患者がいる。
これには注意が必要である。
臍の腫瘤性病変について調べた論文がある。
臍の腫瘤性病変の原因疾患
- 子宮内膜症:27%
- 転移性癌:23%
- 粉瘤:23%
- 尿膜管遺残(臍腸管遺残):15%
診断病理24(2): 191, 2007
病理からの報告なので単純に頻度を反映しているわけではないが、このように臍の腫脹は皮膚疾患ではないことが多い。
速やかにそれぞれの担当診療科へ紹介する必要がある。
「それは皮膚科じゃないですよという病気」第5回は臍の腫脹について。
注意すべき疾患を解説する。
A~Dどれが皮膚科じゃないでしょう?
▼前回の記事▼
A. 子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜の組織が子宮内部以外で増殖する疾患。子宮や卵巣以外に出現したものを異所性子宮内膜症と呼ぶ.
異所性子宮内膜症の中で臍に病変を形成するものがあり、臍の腫脹の原因となる。
>>Image Challenge(NEJM)
特異的所見は月経周期に一致した疼痛や出血。
月経周期により画像所見は変わってくるようで、画像診断はなかなか難しい。
他部位に子宮内膜症がある場合は可能性が高くなる。
画像検査では,限局した不均一な腫瘤として描出されるが、性ホルモンへの反応程度や月経周期により画像所見は異なる。
なお他部位に子宮内膜症を認めた場合には,臍部子宮内膜症を疑う必要がある.
日臨外会誌 73(11): 2969, 2012
根治的治療法は手術。
腹壁の切除が必要になる可能性もあるようで、安易に手を出さないようにしたい。
腫瘤は皮下で頭側に伸び、一部筋膜へも浸潤している可能性があったため、腹壁を全層で切除。
B. 転移性癌
内蔵悪性腫瘍の皮膚転移。
シスタージョセフ結節(Sister Mary Joseph’s nodule)とも呼ばれる有名な症状である。
>>Image Challenge(NEJM)
悪性腫瘍発見の契機になることも多い。
原発臓器は胃が最多(37%)で,膵臓,卵巣,大腸と続く。また,オカルト癌として発見される症例が多く(58%),内臓癌発見の契機となりやすい。
診断病理24(2): 191, 2007
速やかに全身精査を行い、担当診療科へ紹介したい。
C. 尿膜管遺残
個人的には尿膜管遺残が一番多い印象を持っている。
胎生期に存在する、臍と膀胱を連絡する尿膜管。
普通は出生後に閉鎖してしまうが、これが残っている状態が尿膜管遺残。
臍と膀胱前面を連絡する尿膜管は胎生20週頃に閉鎖し,線維性索状物(正中膀索)となる。
組織学的検索では摘出膀胱の約半数に尿膜管遺残を認めたとする報告もあり,無症状例を含めれば決して稀な病変ではない。
診断病理24(2): 191, 2007
尿膜管遺残に感染を起こすことで臍が腫脹する。
>>The Embryology Of Recurrent Discharge From The Umbilicus Of A 16-Year-Old Boy
>>Minimally Invasive Approach to Urachal Remnant in Obese Patient
また臍と小腸を連絡する臍腸管というものもあり、尿膜管遺残と同じような症状が起こるそうだ。
両者を鑑別することは難しいとのこと。
臍と小腸を連絡する膀腸管は胎生7~8週頃までに消失する。
臍部に残存した尿膜管と膀腸管の画像および肉眼像による鑑別は困難。
診断病理24(2): 191, 2007
根治的治療法は手術。
腹腔内へつながり開腹や腹腔鏡手術を要する場合もあるため、外科や泌尿器科に依頼する。
D. 臍ヘルニア
腫瘍ではないが、もう一つ気にしておきたい病気は臍ヘルニア。
小児と成人では成因が異なる。
成人の場合は閉鎖した臍輪の脆弱化や、腹水が原因になったりする。
小児の臍ヘルニアは臍輪の閉鎖不全によって生じるが、成人はいったん閉鎖した臍輪が後天的に脆弱化して起こる。
肝硬変等による腹水貯留も原因となり、ヘルニア内が腹水のみということもありうる。
Visual dermatology 10(6): 578, 2011
これを絶対に切開や穿刺しないように注意しておきたい。
臍の腫脹はとりあえず画像を撮れ、と。
臍部に腫脹をみた場合、安易に生検を行わず、まず画像検査を行うことが重要である。
Visual dermatology 8(6): 598, 2009
まとめ
A~Dどれが皮膚科じゃないでしょう?
答え:全部
見た目では区別はできない。
臍の腫脹は皮膚疾患ではない場合も多く、それぞれが手ごわい疾患である。
腹腔内と交通しているものもあり、安易な切開や生検はせず慎重に診断を詰めていく必要がある。
病変が腹膜や大網と癒着している場合もあるようで、手術にも注意を要する。
「おへそが腫れた」という患者が来たら注意しなければならない。
▼それは皮膚科じゃないですよという病気▼
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