診療をしていると理不尽なクレームに遭遇することもある。
いきなり喧嘩腰。何を言ってもキレる。診察後はしっかり病院にクレーム。
その一人のせいで外来診療が嫌になる。
最近、客を選べない仕事が不人気になってきているという。
変な客の多い職場では働きたくない、と。
★ブログ更新★ これからは「客を選べない仕事」は急速に不人気化すると思う。公務員なんて、相当に心が強くないと務まらない。https://t.co/TkSnW3RhKd
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) August 7, 2019
「まともな人としか働かなくていい」ことが今後職業を選ぶ際に重要になってくるそうだ。
病院も客を選べない仕事の代表的なものである。
我々は彼らとどう対峙すればよいのか。
精神科医・春日武彦先生の本とDVDから、クレーマーの対応策を探る。
▼春日先生についてはこちら▼
BPDについて
春日先生によると、クレーマーは「境界型パーソナリティ障害(BPD)」に該当するケースがあるのだという。
かれらはトラブルメーカー的側面が強く、ときおり激しい衝動性や攻撃性を示す。
それが表面化するとクレームとなる可能性がある。
いわゆるクレーマーとかモンスターペイシェント、さらにはストーカーの多くがBPDに該当するはずである。
かれらは、ときおり激しい衝動性や攻撃性を示す。また他人を翻弄したり組織を混乱に陥れるようなトラブルメーカー的側面が強い。
(はじめての精神科―援助者必携)
たしかにすさまじい怒りを見せるクレーマーに遭遇することがある。
どこからこんなエネルギーが湧いてくるのか、なぜこんな些細なことに激昂しているのかと困惑させられる。
それが病的な気質からきているという考え方である。
BPD全員がクレーマーというわけではないだろうけど、BPDを学べばクレーマーへの対応に役立つはずである。
春日先生は3つの対応法を挙げている。
- 負けるが勝ち
- パターンとしてみる
- 愚痴を言う
それぞれについて解説する。
①負けるが勝ち
なぜクレームを言うのか。
それはかれらにとって「クレームだけがコミュニケーションの手段」だからなのだという。
そんなの勘弁してほしいが、理解困難な人だという事実を受け入れて割り切って対応するしかない。
ポイントは「負けるが勝ち」。
こちらに非がないにもかかわらず無礼な態度を示されたり、わけの分からないクレームを言われたら、反撃したくなる。
しかし相手のペースに巻き込まれて、抗議をすると泥沼にはまってしまう。
こちらが相手につり込まれて感情的になると上司に投書をするとか内容証明付きの手紙を送ってよこすとか、穏やかならざる行動によって意趣返しをはかってくる。
(はじめての精神科―援助者必携)
話し合って解決をはかろうとしてもムダ。
何をされても糠に釘状態を貫き、パワーゲームの舞台から降りてしまうしかない。
人格的に偏りのある人は、対人関係のパワーゲームのみに特化する傾向が見られます。
そうした相手に、話し合いで解決をはかろうとしても無駄です。
何をされても「糠に釘」状態を貫き、とにかくパワーゲームの舞台から降りてしまうしかありません。
抗議をしたり仕返しをすると、相手はゲーム続行と解釈しますから泥沼にはまります。
(「治らない」時代の医療者心得帳)
悔しいけどしょうがない。
- のらりくらりでかわすべし
- ダメな医者を演じて待つ
こういう型を体得していれば、相手から論破されたり、頭を下げたりといった振る舞いも型に到達するための手続きになる。
手続きなのだと考えれば、自尊心も崩れにくいだろう。
「負けるが勝ち」の精神を胸に日々の診療に向かいたい。
②パターンとしてみる
とはいえ、腹が立ちストレスを感じるのはしょうがない。にんげんだもの。
それらをどう解消すればいいのか。
その解決法のひとつが「パターンでみる」ということらしい。
クレームのパターンをコレクションすることを楽しむ。
自分にとって1つのストレス解消になってるのは,じつは「パターンで見る」ことなんですよ。
いろんな事例と向き合うことによってパターンを増やしていく。そこが楽しいんだぜと。
たくさん働くとパターン標本も増える。
自分のコレクション欲求を利用するマニアックな解決法である。
たまに新しいパターンの横綱級ケースに遭って,痛い目に遭うことだってありますよ。
でも,まだ新しいパターンがあったんだ。これでパターンの標本が増えたな,って思えばそんなにつらくもない。
これは結構うまくいく気がしている。
最近、仕事にゲーム性を取り入れることの重要性がよく言われてきている。
困難な状況でも、それを面白がるくらいの余裕が生まれてくる。
また個人としてではなくパターンとして認識すれば、腹立ちの程度も多少は治まるだろう。
③愚痴
クレーマーは一見「普通のまともな人」のようにして登場することが多いという。
それが豹変するから困惑させられる。
またこちらに落ち度がないわけでもなく、自分のほうがおかしいのではないかと不安になる。
しかもトラブルになるときには、自分にもいくらかの落ち度や不適切さがあったと「言えなくもない」といった微妙なニュアンスが混ざっていることが多い。
(はじめての精神科―援助者必携)
かれらと対峙したときに問題になるのが、「まとも」の感覚が揺らいでしまうということらしい。
真面目な人ほど陥りやすい落とし穴である。
こういったとき一人で考え込むのが最悪なのだという。自分だけでは結論はでない。
仲間に愚痴をこぼすのが一番。
まともな人と接することで、まともの感覚を再確認する。
「まとも」な人間と接することで「まともである」という感覚を再確認する。
邪悪なものは「まとも」で希釈するのがベストです。
(はじめての精神科―援助者必携)
愚痴や悪口は言わないほうがいいとも言われるが、この場合は別。
ガス抜き、情動発散が必要である。
やっぱりあいつはおかしい、と認識できたら心が落ち着く。
まとめ
クレーマーの恐ろしさは、やさしさとか善意といったものに疑いが生じ、人間に対する信頼感まで揺さぶられてしまうこと。
多くの人間がもっているやさしさとか善意、良識や品位といったものに対して疑いが生じてしまうことなんですね。
人間に対する信頼感というか肯定的な気分が揺さぶられてしまう。
(はじめての精神科―援助者必携)
春日先生は達観しているかと思いきや、さんざん嫌な目にあってきているようで、ボロクソに書いている。
クレーマーに出会った時の感想は以下の通り。
ひき逃げをされたような理不尽な感情が残る。
頭の隅でわかってはいても「轢き逃げをされた気分」とでも言うべき理不尽な感情が残ってしまう。
世の中にはこんな不快で下品な人間が生息している。
世の中にはこんな不快で下品な人間もまた生息しているのである。
こんな人々が大手を振っている世の中にうんざり。
いちおうは淡々とした態度を保つでしょうが、内心では舌打ちをしています。こんな人々が大手を振っている世の中にうんざりします。
春日先生は「クレーマーにひどい目にあわされるのは医療者としての通過儀礼」だと述べている。
そういう人間がいるということを知っておけば、心の準備ができる。
とはいえ嫌な思いをすることに変わりはない。
結局、アッと驚くような解決策や特効薬があるわけではない。
自分の心の持ち方次第だということだな。
彼を知り己を知れば百戦殆うからず。
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