クリニック開業に関連する本を色々読んでいる。
その中に頻繁に出てくるのは「開業医には経営者目線が必要だ」というアドバイス。
経営者として「売上を上昇させ、ビジネスを拡大する意識」が重要という意見である。
これがどうもしっくりこない。
しかし色々なビジネス書を読んでみると、最近まったく違った起業の形が流行ってきているようだ。
今回は、ポストコロナ時代の開業を考える上で参考になりそうだった本をいくつか紹介する。
1. 売上を、減らそう
最初にこの本。
「売上を減らそう」というのは、ビジネスの常識を打ち破るセンセーショナルなメッセージである。
売上を上げることを優先すれば、長時間の労働が必要になり従業員は疲弊してしまう。
従業員が働きやすい飲食店を作るために、ビジネスをスケールさせることを止めてしまったのが著者の中村朱美さん。
なぜ会社は売上増を目指さなくてはならないのでしょうか。
「業績至上主義」にわたしは違和感を抱きます。
従業員にとって一番重要なのは自分の時間です。
メニューを100食限定にして、営業時間は昼のみ3時間半に短縮。
残業はゼロになり従業員の労働環境は改善したそうだ。
しかし単に売上を減らしただけでは潰れてしまう。
「従業員が働きやすい会社」と「会社として成り立つ経営」を両立させるためには工夫が必要である。
彼女はビジネスモデルを工夫した。
一番の特徴はメニューが1種類しかないこと。食材のロスがなくなり、従業員の教育の手間も減る。
いわゆるランチェスター戦略である。
収益が低くても、経費を可能な限り抑えれば利益を確保できるということだ。
アフターコロナの世界では、このような形態の飲食店は運営できなくなるかもしれないが、考え方は役に立つはずである。
2. 会社は1人で経営しなさい
これまでは「会社をいかに大きくすることができるか」や「いかに売上を増やすか」を考えるのが普通だったが、これからは違う。
1人で経営する税理士の先生の本「会社は1人で経営しなさい」で冒頭に出てくる言葉である。
これからの日本は人口が減っていき、経済規模が小さくなる。
それならば「はじめから成長を追い求めず、適度なものを維持していくほうがいい」。
こちらも売上アップを目指さないという考え方。
コストダウンして無駄な経費を削っていけば利益は確保できる。
この本で勧められているのは「1人経営」。
超少人数のスタッフで経営して人件費を減らす。
「1人経営」は、1人もしくは超少人数のスタッフで仕事そして稼いでいくというスタイルです。
経費を小さくすることができ、人の管理が少なく済む。
人件費には手を付けなかった「売上を、減らそう」と方法は違うが、本質的には同じ考え方である。
もう一つ重要だと書かれているのは個人の生活費も減らすこと。
そうすれば十分に豊かな生活ができる。
個人も生活費を小さくする前提で、ローコストで生きていけば、充分に豊かな生活ができるはずです。
この考え方が自分にはしっくりきた。
3. しょぼい起業で生きていく
最後はこの本「しょぼい起業で生きていく」。
一般的に起業は「イノベーションを起こしたい」という大きな目標や夢が必要と言われている。
しかし著者の「えらい店長」氏は組織で働くのが苦手という理由で、リサイクルショップを起業したそうだ。
大きな目標や夢があったわけではない。
組織で働くのが無理なら起業しよう
私の場合「大きな会社を作ってイノベーションを起こしたい」とか大それた目標や夢があったわけではなく、消去法的に起業したわけです。
彼の提唱する「しょぼい起業」は固定費も含めて、あらゆる出費を限界まで抑えることが大原則。
- 家じゃなくて店に住む
- 従業員は雇わない
ベースにあるのは友好関係。
「えらい店長」氏の店舗(兼自宅)では、自然に集まってきた暇な人がやりたいことを手伝ってくれるそうだ。
これは低コスト経営の究極の形だと感じる。
ここまで徹底するのはさすがに難しそうだが、考え方は参考になる。
クリニック開業に応用できるか?
売上が低くても、いろいろな手段で経費を抑え利益を確保する「低コスト経営」は、クリニック開業でも可能だろうか。
あるときヒントとなりそうな電子書籍を読んだ。
なんとクリニック開業の失敗本である。
キンドルの自費出版だが、こんな貴重な本は他にはないだろう。
このクリニックの損益分岐点は1日患者数50人。
ところが開院当初は1日20人程度だったそうだ。
平日の外来患者数が1日20人を超えない。
そこで色々な診療科を集めた便利なコンビニ医院をつくろうと思い立つ。
色々なツテを頼り医者を確保。皮膚科と耳鼻科の診察を開始したそうだ。
これが当たり1日患者数は70人に増加。土曜日は200人を超えるようになる。
ところが利益はそれほどでなかったのだという。
20人が限界だったのが200人を超えた。浮足立ったのもつかの間で利益がそれほどなかった。
高額なドクター人件費と、数が多くても単価が低い診療報酬では継続がむつかしくなってきた。
収入は上がったが経費が高いため利益が確保できず、結局閉院してしまったそうだ。
この先生は規模の拡大を目指して失敗。低コストで小さく開業することを勧めている。
診療科目をひろげて患者を増やすよりは、ひとり院長でできる範囲での外来と在宅医療をやればよかった。
従業員を多数抱えれば人件費で経営を圧迫することもあるが、ひとり院長ならば倒産のリスクは限りなくゼロになる。
小さければなんとかやってはいけるのが内科医院なのだ。
まとめ
これらの起業のエッセンスは経費を抑えるということ。
以前紹介したマンガ「インヴェスターZ」でスモール起業と言われていた考え方である。
そのためには業者に吸い取られるお金を最小限にしないといけない。
また生活費のコストダウンも必要である。
身の丈にあったスモール開業。
いかに患者を増やすかではなく、いかに経費を抑えて小さくやっていくか。
ポストコロナ時代の開業の一つの形として検討に値すると感じた。
今回紹介した本の一覧
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