ダークファンタジーの金字塔ベルセルク。
少年マンガで育ってきた自分にとてつもない衝撃を与えた思い出深いマンガである。
▼あらすじはこちら▼
久しぶりに全巻読み直してみると、かっこいいシーン、好きなシーンが満載だった。
そこで今回はベルセルクの名シーンを10個を選出した。
最近読んだ三浦建太郎先生のインタビュー記事が面白かったので、それを引用しつつ解説してみる。
蝕のインパクトは別格なので、あえて外している。
名シーン:黒い剣士篇(1-3巻)
ベルセルクのプロローグ、前座のお話。
ひねくれ者のダークヒーローガッツが暴れまわる。
ただ当時はセンセーショナルだったのかもしれないが、今となってはありがちと感じてしまう。
面白くなってくるのは黄金時代篇以降。
インタビューによると、この頃は過去編の構想はまったくなかったそうだ。
色々張っていた伏線が後付けでカチリとハマった奇跡的な作品なんだな・・。
最初は妖怪退治の黒い剣士って設定だけでどこまでいけるんだろうかって感じだったんですよ。
鷹の団という構想自体、本当になくて。
(少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集)
名シーン:黄金時代篇(3-14巻)
過去編だが事実上の本編。これ以降の内容は後日談に過ぎないとも言える。
ストーリーは中世を舞台にした正統派大河。
そして衝撃的すぎるラストはマンガ史上に残る。
黄金時代篇を名作たらしめている特徴は緻密な人物描写。
三浦先生は少女マンガのような感情面を描くことを目的としていたそうだ。さもありなん。
僕の描きたいマンガっていうのは、お話自体がけっこう少女マンガチックなところがあって。
親に愛されなかったこどもという設定。それでそのあと、グリフィスと運命の対として出会うみたいなのって、それこそ少女マンガの王道ですよね。
(少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集)
そしてガッツとグリフィスの関係性はBL的なものだとも・・。
藤本:ガッツとグリフィスっていう象徴的な二人を持ってきたことで、女性からは「やおい」的な反応があるんじゃないかと思うんですが、三浦さんの中では不本意ですか?
三浦:いいえ。女の子に関してはすごい雑然と扱うのに、男友達に関してはすごい義理堅い。周りからみるとホモに見えるのかもしれませんね、そういうのって。
(少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集)
BLを意識して読み直すと色々と違った見方ができるようになる。
たとえばこのシーン。昔はキャスカをガッツに取られてジェラシー…だと思ってたけど。
実は逆だったんだな。
(12巻より)
1. 炎の墓標(8巻)
グリフィスを妬み暗殺しようとする王妃一派との謀略戦。
合戦がメインの黄金時代篇の中では若干異質な政治劇。
あらゆるものを利用するグリフィスの知的で冷酷な側面が大きくクローズアップされた。
ゴロツキに金を渡し、利用した後に殺す。王座につくためには清濁併せ呑む必要がある。
こういうエピソードがあることでさらに物語に深みが出た気がする。
2. 旅立ちの朝(8巻)
ガッツとグリフィスの決闘。
珍しくグリフィスの思考が描かれる貴重なエピソード。
この後にグリフィスはアッサリと転落していってしまうんだけど、妙に唐突な印象を受けた。
これはグリフィスらしからぬ堕ち方を模索した結果とのこと。なるほどねー。
人間に関してのリアリティは、あそこに関しては一番欠けてるかもしれませんね。
最も愚行、「グリフィスらしからぬ堕ち方」っていうのを考えなくちゃならなかったんです。でないとあのカタルシスは出てこないんで。
グリフィスは人間の心を動かすプロフェッショナルだから、人間関係でおっこちることはまずない。
(少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集)
雪原と朝日の美しいショットが印象に残ったエピソードだった。
ここがベルセルクで一番好きなシーンかもしれない。
名シーン:断罪篇①ロスト・チルドレンの章(14-16巻)
物語の大筋とは関連がないサブストーリーだが、バトル、ドラマ、進行スピードのバランスが秀逸だった。
おとぎ話の題材をベルセルクで描いたらどうなるのか。
黒い剣士篇と同じくガッツが暴れまわる話なのだが、ジルとロシーヌのドラマが物語に深みを与えていて三浦先生の成長が感じられる章。
3. 蛍(16巻)
使徒ロシーヌとの戦いの決着回。
ベルセルクのベストバウトはガッツvsロシーヌだと思っている。
使徒ロシーヌの強さは圧倒的で、こんなのどうやって勝つんや・・?と思った。
圧巻なのは決着シーン。
人間としての力のみで戦うガッツだが、その狂気は化け物すらも恐れさせた。
4. 青空の妖精(16巻)
ロスト・チルドレンの章のエンディング回。
「今の過酷な現状から連れ出してほしい」と訴えるジルに対するガッツの回答。
逃げ出した先に楽園なんてありゃしねえのさ。辛い現実から逃げ出したくなったときにいつも思い出すシーン。
三浦先生の人生観が体現されたエピソードである。
「逃げずに一番最初のところでふんばりつづけると、どっかで抜けるよ」っていうのは僕の短い人生経験から言える唯一のことなのかもしれません。
(少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集)
ガッツとの出会いを通して少しだけ成長できたジル。
壮絶な死闘の後の爽やかなラストが印象的だった。
名シーン:断罪篇②縛鎖の章(16-17巻)
幕間といった感じの短い章で使徒は登場しない。
おそらく今後の主要キャラとなるファルネーゼの紹介のためのエピソード。
ファルネーゼの圧倒的な変態性はインパクトがあった。
5. 真実の朝(17巻)
基本やる気なさそうなファルネーゼの部下セルピコ。
ガッツに「見逃してください」と頼む。
このまま穏便に事が運ぶかに思われたが・・。
ページをめくるといきなり切り合い・・!、というのは結構驚いた。
セルピコなんだかんだでやる気(殺る気)あるじゃん。
飄々としながら実は強いっていうのは定番ながら好きなキャラである。
名シーン:断罪篇③生誕祭の章(17-21巻)
ついに物語が大きく動き出す!
「光の鷹の予言」と「蝕が模される」という圧倒的なワクワク感で、今後の展開に期待が高まりまくりだった。
ところが本筋と関係ない話が多く、進行がむちゃくちゃ遅かった・・。
連載中は全然ストーリーが進まずイライラしたが、人間ドラマがしっかり描かれていて読み返すと完成度は高い。
ニーナとルカ姉の話なんてまったく本筋と関係ないけど、なかなか味わい深い。
6. かよわき炎(17巻)
ありがちなパワーアップイベントも三浦先生の手にかかればドラマチックなものになる。
復讐一辺倒だったガッツが大切なものの存在に改めて気づく。
狂戦士が暴れまわる話から、大切なものを守るための話に大きく方向転換していく重要なエピソードである。
絶望しかなかった物語の中に希望が見いだされてちょっと感動した。
ガッツを導く鍛冶屋ゴドーはチョイ役だけど、自分の美学を貫くなかなか良いキャラである。
7. 猛信者(18巻)
敵キャラ・モズクズを掘り下げる回。
ただの残虐なキャラかと思われたモズクズだったが、彼は彼なりの信念と信仰心で職務にあたっていることが判明する。
そして彼に救われた人たちもいるという。
単純な善悪では括れない奥行きを感じさせるエピソードだった。
(モズクズと部下の掘り下げとかしなくていいからストーリーを進めてくれよ・・とも思ったが)
感動するファルネーゼをよそに、モズクズの説教を聞いた後のセルピコの言葉も隠れた名言。
非の打ち所のない正論はうさんくさい。日常でもしばしば出くわすシチュエーションである。
こういうバランス感覚を大事にしたいですな。
8. 跳魚(21巻)
キャスカを目の前にしながらも、使徒もどきや聖鉄鎖騎士団に幾度となく阻まれてしまうガッツ。
見ているこちらにもイライラがつのる(キャスカを救い出すのにいったい何年かかるんだ・・と)。
敵を倒しあと一歩まで迫ったガッツだったが、悪霊に阻まれ進めない。
そして火炙りにされるキャスカ。
蝕のときと同じ結果になってしまうのか。
そこでキャスカを救い出したのは、なんとイシドロだった!!
髑髏の騎士のセリフがオーバーラップする救出シーンには痺れた。
「そのすべてが寸分だがわず同じというわけではない」
イシドロってとにかくウザくて嫌いなキャラだったが、土壇場でこういう活躍をさせるところが上手い。
9. 縋るものもがくもの(21巻)
有名なモズクズとの決着回。
自分では何もせず神に救いを求めるだけの民衆たちへ「人にすがらず自力でなんとかしろよ」とガッツは説く。
これはベルセルク全体に流れるテーマである。
こんな風に、何もかも人任せで他人の批判ばかりしているって人は多いんじゃないだろうか(特に昨今の状況では)。
今の日本の悪いことを「集団」をキーワードに展開できたらな、っていう感じで始めたんです。
集団の排他的な感じとか、自分で行動を起こさない感じ、誰かがやってくれるんじゃないかっていうような。
(少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集)
数々の修羅場を自力で乗り切ってきたガッツの力強いメッセージに惹かれた。
そして決着は必ず取り上げられるカッコよさNo.1の名シーン。
名シーン:千年帝国の鷹篇①聖魔戦記の章(22 – 27巻)
千年王国の鷹篇から物語は様相が変わる。
ガッツの復讐を中心としたダークファンタジーから剣と魔法のファンタジーに。
魔法の一つ一つにきちんとしたウンチクがあって、リアルな魔法ファンタジーを描こうという意図はわかるが、これまでの展開が好きだった人間としては残念な部分もある。
作品を描く際、臨場感を旨としたいので、空想世界であればこそリアリティや理屈を大切にしたい。
「月刊MOE」インタビューより
まあ何十年も同じテーマで続けるのは難しかったんだろうけど。
10. 獣剣士対黒い剣士(22巻)
ガッツとゾッドの再戦。
以前は手も足も出なかったが、激戦の数々を乗り越えてきたガッツは互角の戦いができるようになっていた。
ガッツの死闘を見守ってきたファンとしては感慨深いシーンである。
地獄のような救急当直の数々を乗り越えて、ふと成長を実感したときにこのシーンを思い出す。
「数え切れない夜が俺を叩き上げた」
名シーン:千年帝国の鷹篇②ファルコニアの章(27巻-35巻)
ガッツ篇とグリフィス篇の2つに分かれて話が進む。
その分物語の進み方はさらに遅くなってしまった。
ガッツはクシャーンの操る妖獣軍団と戦うんだけど、相手がただの獣なのでまったくドラマがなくて面白くない。
ファルネーゼの掘り下げはあるんだけど、毒が抜けてつまらない奴になってしまった。
一方グリフィスは新生鷹の団でクシャーンの皇帝と戦う。
クシャーン大帝ガニシュカは迫力はあったけど、グリフィスは神だから絶対負けない。
そんなチートの戦いを延々と見せられても全然面白くないんだよな・・。
名シーン:幻造世界篇①妖精島の章(35巻~)
グリフィス篇ではリッケルトが活躍。リッケルト、シラット、ダイバの脇役チームは期待できそうだ。
ガッツ篇は幽霊船、海の化け物との戦い。このエピソードは正直全然必要なさそう。
そしていよいよキャスカ復活で物語はどう動くのか。
まとめ
黄金時代篇~断罪篇まではムチャクチャ面白かったんだけど、それ以降は尻すぼみである。
所々に面白いところもあるんだけど、いかんせん話が進まなさすぎる。
ただずっと追いかけてきたマンガなので、最後まで見届けたいと思っている。
一応ガッツとグリフィとの関係性に決着をつけようという意向はあるようだし。
グリフィスとガッツの本格的な人間関係はここから始まる。
グリフィスも魔物になったことで心の決着はつく。要するに大人になった二人の人間関係はこれからどうなるかってことだと思うんです。
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