いまさら銀河英雄伝説のアニメをみている。
銀河英雄伝説(銀英伝)は1982年から1987年にかけて刊行されたSF小説で、アニメ化もされている作品である。
最近リメイクアニメが制作されているが、今回見たのは旧版アニメ(全110話)。
超有名な作品で、もはや一般教養の一つにすらなっている印象だが、今までみたことがなかったのだ。
これはかなり面白い。
戦争だけでなく、政治劇もふんだんに描かれていて、ガンダムよりもリアルなSF作品である。
前回の記事では銀英伝から軍事についてのエピソードを紹介した。
数多くの人物が登場する銀河英雄伝説。
今回は好きなキャラクターベスト5を紹介したい。
5位:皇帝フリードリヒ4世
第5位は銀河帝国皇帝。
腐敗した貴族社会を象徴する存在であり、ラインハルトの姉を奪った憎き敵。
そのため本来はラインハルトが倒すべきラスボスとなる人物のはず。
ところが実際はまったく倒す価値が無いヤツだった。
権力にしがみつき、あらゆる権謀術数でラインハルトを陥れる…ことはまったくない。
権力に対して、執着も興味がない枯れ切ったフリードリヒ4世。
帝国の支配体制が限界であることを理解しており、むしろ革命が起こることを望んでいる。
不死の人間がおらぬと同様、不滅の国家もあるまい。
余の代で銀河帝国が絶えて悪い道理がなかろう。ハッハッハッハッ・・・。
最後はラインハルトに敗れ去り処刑される・・ということもなく、なんの脈絡もなく突然死。完全に肩透かしだった。
まさに逃げるが勝ち。
そのお陰で彼の孫が大変な苦労をするわけだが、こういう倒しがいが無い脱力系の人間になりたいものである。
4位:シェーンコップ
ヤン艦隊の陸戦部隊ローゼンリッターの隊長で、白兵戦は銀河最強。
三国志の世界だったら主役級の武将になるはずだが、戦艦で戦う銀英伝の世界ではあまり役に立たない死にスキルである。
そのため当初は脳筋ポジションのモブキャラかと思われたが、徐々に知性も発揮していく。
度々行われるシェーンコップとヤンとの対話は、物語のテーマを浮き彫りにするものである。
もし民衆が独裁を望んだとしたらどうなるのか。
民衆の大多数が、民主主義ではなく独裁を望んだとしたら、そのパラドックスをどう整合させるのか、というやつですがね。
ヤンの抱えるジレンマは、民主主義自体が抱える問題点でもある。
あなたは今の同盟の権力体制がいかにダメなものであるか骨身にしみて知っている。
それなのに全力を挙げてそれを救おうとする。これも大いなる矛盾ですな。
ヤンに対して苦言を呈しながらも、シェーンコップはヤンの良き理解者となっている。
人生の酸いも甘いも知り尽くした大人の魅力を感じさせられるキャラクターである。
要塞とか人妻とかいうものは、そう簡単に借りられないものですがね。ひっかけるしかないでしょう。
3位:ムライ
ヤン艦隊の参謀長。
作中での活躍の場はほとんどないモブキャラである。
そもそもヤンに参謀なんて必要ないので、参謀長は不要な役職なのだ。
さらにヤンとポジションがかぶっているため、否でも応でも彼と比較されてしまう。
ムライも決して無能ではないようだが、ヤンと比べれば凡人である。
そんなつらい立場でどう立ち振る舞うべきなのか?
ムライは自分の役割をわきまえていた。
まぁ、いまだから言うが、私の任務はヤン提督のひきたて役だったんだ。
あの人にとって参謀が必要だとすれば、それは他人がどう考えているか、それを知って作戦の参考にするためだけのことさ。
奇策を用いがちなヤンに対して、あえて凡庸な常識論を唱えることでバランスをとる。
凡人であることが自分の役割であると自覚し、そのように振る舞っていたのである。
人間は天才を目の前にすると、嫉妬心にかられがちである。
我々凡人の身の振り方として、ムライから見習うべき点は多いだろう。
「天才vs凡人」は様々な作品で扱われているが、そういうテーマをモブキャラに入れ込むのが銀英伝の奥深さである。
2位:トリューニヒト
自由惑星同盟の政治家で、腐敗した民主主義を象徴する存在として描かれている。
当初は口先だけの無能な扇動政治家かと思われたが、物語が進むにつれて次第に怪物じみてくる。
機を見るに敏。
ヤンの活躍の舞台裏で、様々な危機を逆に利用し漁夫の利で政敵を排除していく。
そしてついに同盟の元首となり、最高権力者にまで上り詰めるのである。
しかしその権力にもしがみつくことなく、帝国の侵略を受けた際は、保身のためにあっさりと国自体を売り渡してしまう。
このように冷静に損切りの判断ができるのは一種の才能だと言えるだろう。
さらにそこで死なないのがトリューニヒトのすごいところ。
帝国に亡命して生きながらえ、帝国内部でも勢力を拡大していく。
とてつもなくしぶとい男である。
同じく物語の裏で暗躍するルビンスキーだが、彼は自分の目的を雄弁に語る。
一方トリューニヒトの真意が明かされることはなく、そのぶん得体のしれない不気味さがある。
彼の実態はラインハルトでさえも捉えることはできなかった。
ラインハルトはトリューニヒトを帝国側の人間として、同盟に赴任させようとする。
保身のために売り飛ばしたかつての故郷に赴任するなんて、普通の精神であればできることではない。
人事を断らせて、それを口実に彼を処断しようとしたのである。
ところがトリューニヒトはこの人事を快諾。逆にラインハルトを驚かせてしまうのだ。
目的のためには体面など気にしない、彼のしぶとさと割り切りからは、学ぶ点があるのではないだろうか。
彼はヤン同様、民主主義の問題点に気付きながらも、それを自分のために最大限利用しようとした。
ヤンの対になるのはラインハルトではなく、トリューニヒトなのかもしれない。
私のような人間が権力を握って、他人に対する生殺与奪を欲しいままにする。これが民主共和政治の欠陥でなくてなんだと言うのです。
トリューニヒト目線での銀英伝を見てみたいところである。
でも最後は不注意すぎるよなあ…。
1位:オーベルシュタイン
1位は帝国一の嫌われ者オーベルシュタイン。
作中ではよく「ラングとオーベルシュタイン」みたいに並べられるが、彼をラングみたいなザコと並べるのは失礼すぎるだろう。
大事のためには少数の犠牲は容認される。
このオーベルシュタインの思想は功利主義と呼ばれるものである。
支配者は、時としてより多くの幸福のため、一部の犠牲を容認する必要に迫られる時があります。初歩なればこそ、原則であり真理です。
彼については次回の記事で詳しく解説したい。
銀河の歴史がまた1ページ…。
つづく
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