診療の現場では、「珍しい病気ではなくて、一般的な病気や命に関わる病気を最初に考えなさい」と教わる。
確かにその通りなのだが「じゃあ珍しい病気はどうやって診断するのか?」という疑問については答えてもらえない、
國松淳和先生の「ニッチなディジーズ」はそんな疑問に答えてくれる、マニアックで面白い教科書である。
取り上げられているのは、橋本脳症、アイザックス症候群、シトルリン血症などなどの珍しい病気の数々。
この本のコンセプトは以下の通り。
今まで経験が無くても、今日出会うかもしれない。それが最初で最後かもしれない。そういう疾患を偶然ではなく、必然で引き込めるようにすること。
「ニッチなディジーズ」の感想
読み進めていくと、國松先生はなかなかのマニアだということが分かる。
ハッキリ言ってしまえば私は「レアモノ好き」なんです。
モンシロチョウの生態調査じゃなくて、オオムラサキのオスを生け捕りにして丁寧に標本にしたいというだけなんですよ。
オオムラサキとは
日本に分布するタテハチョウ科の中では最大級の種類。オスの翅の表面は光沢のある青紫色で美しい。都市近郊では地域絶滅の危機に瀕する産地もある。
(Wikipediaより)
昆虫についてはよく分からないが、この先生の考え方には共感できる。
自分もレアものが大好きだ。
皮膚科の魅力は「見た目で診断がつくこと」なんて言われたりもするが、正直、見た目だけで湿疹を診断しても別に面白くはない。
レアな病気をみつけて学会発表、論文にもっていくのが自分の診療のモチベーションであり、皮膚科の醍醐味だと思っている。
その点では皮膚病は3000種類以上あるといわれていて、レアものには事欠かない。
レアもの好きのマニアには皮膚科はオススメできる(診断がついても治療法はない、という場合も多いけれど)。
▼皮膚科の病気の種類についてはこちら▼
レアケースを診断するためには
それでは一度もみたことがない病気をどうやって診断したらよいのだろうか。
みたこともない病気を疑うには、「Review」や「Original article」よりも「症例報告」をたくさん読んでおくことが大事とのことである。
症例が来たときに、即座に反応できるようにイメージトレーニングをしておく。
とにかく想像すること。症例報告を読んで、診察しているときの様子、臨床経過を想像する。
経験したことはなくても、極限までリアルに考え、疾患の診断推論の場で疑い、診断するということを日常的にするようになりました。
知識がないと珍しい疾患がきてもスルーしてしまう。勉強している人のところにしかレアものは来ないということだ。
このように臨床現場ではmajor paperよりも、case report・症例報告のほうが役に立つということが多々ある。
medtoolz先生もそのことについて、かつてブログで述べられていた。
【関連】臨床で必要なことはすべてmedtoolz先生から学んだ
ストーリー性がある体験談は面白く、記憶に残りやすい。
こんなにすごい症例を治した、こんなに困難な場面をこうやって切り抜けたといった体験談は、それだけで最高に面白い物語であり、また後々役に立つ知識として自分に残る。
ところが物語性を排除して知識を抽象化してしまうと、便利になる一方で無味乾燥なつまらないものになってしまう。
なのに、それが抽象化された知識の羅列になったとたんにつまらなくなり、同時に臨床の現場で何の役にも立たない知識になってしまう。
これは医療に限った話ではない。
人類が「物語」を様々な教訓やノウハウを伝えるための手段として用いてきたのは、そういう理由なんだろう。
経験を物語として伝える
失敗すると死につながるような職業、炭鉱とか、猟師といった危険な仕事をする人たちは、さまざまな知識を物語の形で次の世代に伝えた。
ストーリー性は知識を得る上で大事な要素である。
そう考えると地道に症例報告を行っていくことにも意味があるように思う。
國松先生は変わった(盲点になるような)切り口で色々な本を書いているので、他の本もいずれ紹介したい。
▼國松先生の書評まとめ▼
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