前回は銀英伝から政治についての内容を紹介した。
今回は軍事の話。
銀英伝では、戦略と戦術を明確に区別することの重要性が語られている。
勝敗などというものは、戦場の外で決まるものです。
戦術は所詮、戦略の完成を技術的に補佐するものでしかありません。
(外伝「新たなる戦いの序曲」より)
戦術とは個々の戦闘能力。
一方の戦略とは戦闘に突入する前の政治や駆け引き。
戦略は戦術に勝る。
どれだけ個々の戦闘能力が高くても、勝敗は戦場の外の駆け引きで決まってしまう。
戦略を無視して戦術だけの優劣を論ずるなど、実際の戦争ではあり得ないことだ。
(第19話より)
これは軍事だけに限った話ではない。
今回は「戦略と戦術」に関わるエピソードを解説したい。
宇宙暦798年ラグナロック作戦(バーミリオン会戦)
戦いの背景と動向
戦略と戦術について、一番わかりやすく描かれているのがラグナロック作戦である。
自由惑星同盟はアムリッツァ会戦で戦力のほとんどを失ったが、要所のイゼルローン要塞を抑えているため、帝国からの侵攻は防げていた。
そこで帝国軍は禁断の作戦を実行する。
中立地帯のフェザーン回廊から全面攻勢をかけたのである。
同盟内で唯一、戦力的に期待できるのはイゼルローン要塞。
圧倒的火力を誇るこの要塞の戦力であれば、目の前の戦闘では勝利できるだろう。
しかし「唯一の交通路」というイゼルローン要塞の戦略的優位性は失われてしまった。
戦略は戦術に勝る。
その原則に則るヤンはイゼルローン要塞を放棄することを決定する。
しかし戦術で形勢を逆転できる可能性が一つだけあった。
それはラインハルトとの一対一の艦隊戦に持ち込み勝利すること。
後継ぎが不在の銀河帝国は、ラインハルトを失えば瓦解するのである。
ヤンとラインハルトの最終決戦
ゲリラ戦で帝国艦隊を各個撃破し、ラインハルトの本隊を引きずり出して倒す。それがヤンの作戦だった。
神出鬼没のヤン艦隊に翻弄される帝国軍。ラインハルト艦隊は次々に撃破されてしまう。
帝国軍の中では、ヤンを無視して首都を制圧すべきという声が上がる。
しかしラインハルトはヤンとの完全決着を望んだ。
神出鬼没のヤン艦隊を確実に倒すには、ラインハルト自身が囮になって、ヤンをおびき出すしかない。
そしてバーミリオン星域で、二人の最終決戦が始まったのであった。
銀英伝で一番熱い戦いがバーミリオン会戦である。
戦術で戦略的不利を逆転できるか?
ラインハルトの機動的縦深防御によって苦戦を強いられる同盟軍。
だが激しい戦いの末、ヤンの勝利が目前に迫る。
しかしその瞬間、同盟政府からの停戦命令が発動される。
首都を包囲された政府が自分たちの身を守るため、勝利を目前にしてあっさりと降伏してしまったのである。
帝国軍の戦略的勝利。
ヤンは目先の戦闘では戦術的勝利を重ねたにもかかわらず、自由惑星同盟は敗北してしまったのだった。
天才ヤンをもってしても、やはり戦術で戦略を挽回することはできなかった。
ローエングラム公のすごいところは、その戦略において常に五分以上に持ち込んでしまうところにある。
彼はいつも実際に戦う前に勝利しているんだ。
戦略の重要性について、最もわかりやすく描かれたエピソードがバーミリオン会戦である。
まとめ
今回は銀英伝から戦略と戦術についてのエピソードを解説した。
そしてこれは軍事だけに限った話ではない。
最適な治療(戦術的勝利)を繰り返していても、患者の最適なアウトカム(戦略的勝利)が得られないことは多い。
戦術と戦略の違いを常に意識しておく必要があるのである。
銀英伝から得られる教訓は多い。
次回は登場人物についての考察をする予定である。
銀河の歴史がまた1ページ・・。
つづく
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