近年、ネットでの誹謗中傷は加熱している。
数十年前の発言を掘り返されて炎上するケースすらあり、その破壊力は凄まじいものがある。
自分も不届きな輩をSNSで見かけると、ついつい誹謗中傷したくなってしまう。
しかしその前に一旦冷静になって考えてみる必要があるだろう。
進化心理学シリーズ第5弾。
なぜ人は誹謗中傷するのか。
その理由を進化心理学から考えてみたい。
▼前回の記事▼
正義中毒
橘玲先生の著書「朝日ぎらい」に正義について書かれた部分がある。
正義とは快楽である
我々は道徳に反した人をバッシングするとき、ドーパミンが放出され強い快感がもたらされるそうだ。
脳の画像を撮影すると、復讐や報復を考えるときに活性化する部位は、快楽を感じる部位ときわめて近い。
道徳的な不整を働いたものをバッシングすることは、セックスと同じような快楽をもたらすのだ。
ドーパミンはヘロインやコカインの中毒症状の原因となることで知られている脳内物質。
世の中には正義の中毒状態「正義依存症」に陥った人たちが数多く存在している。
アルコール依存症やドラッグ中毒と同じ正義依存症であることを示している。
しかしいくら快楽のためとはいえ、正面から他人をバッシングするのにはリスクが伴う。
そこで安全に快楽を得られる方法が、匿名という安全地帯から悪を攻撃すること。
彼らは匿名でバッシングできる機会をさがしてネットを徘徊している、というのが橘玲先生の考察である。
匿名という安全地帯から悪を攻撃するのはドラッグを摂取するのと同様の快楽をもたらすのだろう。
それではなぜ道徳に反したものをバッシングするとドーパミンが放出されるのだろうか。
これには進化論的な理由があるようだ。
進化心理学と道徳の起源
進化心理学とは?
ここで進化論について復習しておく。
ヒトの歴史を振り返れば、200万年間の旧石器時代があり、農耕が始まったのはわずか1万年前。
そのためヒトの遺伝子は、まだ旧石器時代のままである。
このようなヒトの進化の過程から、体のしくみなどを解明するのが進化論である。
ヒトのからだが進化によってつくられたように、私たちの心や感情も進化の過程でつくられ、遺伝的にプログラムされている。
つまり感情も旧石器時代に最適化されている。
そう考えれば一見不合理に思われる人間のいろいろな感情も論理的に説明することができる、というのが進化心理学である。
それでは、なぜ道徳に反したものをバッシングするとドーパミンが放出されるのだろうか?
その理由を進化論的に考えてみる。
道徳の起源
狩猟採集時代、共同体の生活は濃密で、放っておけばそれぞれが自分の利益だけを追求し殺し合いになりかねなかった。
それでは共同体を維持するためにはどうしたらよいだろうか。
答えは「ルールに違反した人間を罰したくなる」ように脳に組み込んでおくこと。
道徳とは共同体を維持するために脳に組み込まれたシステムなのである。
ルールに違反した者を罰することを(自然選択によって)脳に組み込んでおくのがもっとも効果的です。「現代の進化論」では、これが道徳の起源だとされている。
このように人間はルールに違反した人をバッシングしたくなるよう何百万年も前から条件づけされてきたのである。
まとめ
SNSを見ていると、過度な社会正義を振りかざす人を目にすることは多い。
それは医師であっても例外ではない。
エセ医学を叩くことは患者のために重要なことだが、果たしてそんな利他的なモチベーションだけでやっているのだろうか。
もしかしたら正義中毒に陥っているのではないか。そんな疑問も抱いてしまう。
自分も、ついつい社会正義を振りかざしたくなることがある。
でもそれは社会を良くしたいという崇高な目的ではなく、自分が気持ちよくなりたいからなのではないか。
悪いやつがいるから叩くではなくて、叩きたいから悪いやつを探す、と目的と手段が逆転してしまっているのではないか。
それに自覚的でいたいと思う。
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