前回は大学院、研究関連の記事をまとめた。
学位を取得した後は、管理職として総合病院に勤務することになった。
しかし多くの人(男性皮膚科医の34%、女性の54%)は管理職なんかやりたくない…と思っているそうだ。
皮膚科医へのアンケート:指導的な立場に立ちたいか?
- 立ちたくない:男性34%、女性54%
- 立ちたい:男性12%、女性13%
日本皮膚科学会雑誌. 122(13): 3593, 2012
自分は何の考えもなしに、なんとなくその立場に立ってしまった。
そこでどんな経験や苦労があったのか。
今回は管理職関連の記事をまとめてみる。
病院の経営術
管理職になると、目の前の診療だけでなく経営面も考慮する必要がある。
そこで知ったのは田舎の病院経営の実態。
人口減少が続く田舎では、普通にやっていただけでは赤字。
対策として、患者を積極的に(必要がなくても)入院させることが推奨されていた。
医療費の問題を考えれば本来避けるべき過剰医療。
しかしそれを追求しなければ経営が成り立たないのである。
ゴールを明確にする
管理職は入院患者の診療をマネージメントする必要がある。
そこで患者の「治癒」をゴールだと思っていると、行き詰ってしまうことがよくある。
高齢化した地域で診療を行っていると、「入院してキレイに治って、元気に退院していく」ということは少ない。
皮膚疾患で入院したはずだったのに、入院後次々に別の病気が併発し、もぐら叩き状態。
さらに入院によってADLが低下し、寝たきり状態になってしまう。
治療を積み重ねた先に退院があるわけではない。
「どうやって退院させるか」を具体的にイメージしておくことはとても大切である。
そして不要な入院は基本的に避けるべき。
しかし患者や家族からそんな入院を希望された場合にどうするか。
自分も、何でも要望に応えて「いい顔」をしたいという願望はある。
だが現実的には要望をつっぱねなければならない事も多く、神経をすり減らす日々であった。
紹介状の書き方
クリニックからの紹介患者を診るのが病院の重要な仕事である。
そこで開業医の先生方の紹介スキルを学ぶことができた。
「良い紹介」、「悪い紹介」、そして「悪いけど上手い紹介」。
この「上手い紹介」が開業医の腕の見せ所な気がする。
判断力と統率力
最終的な決定権を持つ管理職の立場では、つねに判断を迫られる。
一つ一つの判断は大したことなくても、積み重なると苦しくなってくる。
そして結果論で非難される難しさもある。
さらに管理職として部門の「統率をとる」のはとても大変なことである。
正しい判断ができても、それでまわりが動いてくれるとは限らない。
リーダーは立ち振る舞い(自信ある態度など)も重要なのだ。
自分が下っ端だったころはボスの求心力のなさを非難したりもしたが、リーダーの立場になってみるとその難しさがよくわかる。
上司不在ということ
誰しも無能な上司に出会ったことはあるだろう。
若いときはそんな上司をバカにしていた。
しかし管理職の立場になったとき、彼らのありがたみに気付いた。
無能な上司を批判をすることで、自分を有能に見せることができるのである。
しかしそんな上司が存在しなければ、自分自身の能力に頼るしかない。
そして気づいたら自分も無能な上司になっていたのだった。
組織の中で昇進を続けていくと、誰もがいつかは無能になってしまう。これを「ピーターの法則」と呼ぶそうだ。
自分が無能であることに気づいた人間の末路は悲惨である。
クレーマー
どんな業界にも当てはまると思うが、クレーマーの対応には精神を消耗させられる。
特に管理職となればなおさらである。
もともと「患者を救いたい」みたいな志は希薄だったが、多少の責任感みたいなものは持っていた。
しかし善意を踏みにじられるようなことばかりが続くと、もうやる気がなくなってくる。
客層が悪いのは地域柄なのだろうか。
そんな顧客を抱え込むことを要求される職場で、仕事を続けていくのは不可能だと感じた。
教育
管理職の立場はいわばプレイングマネージャー。
自分の業務を行いながら新人の教育を行う必要がある。
そして主に2つの教育に携わることになる。
- 研修医
- 皮膚科専攻医
マイナー科の研修はせいぜい1か月程度で、研修医を一人前に育て上げる必要はないし不可能である。
しかし色々な部署を移動する研修医は、院内でも屈指の情報網を持っている重要人物。
研修医の評判を上げれば、口コミで院内での皮膚科の評判も上がる可能性がある。
つまり研修医の教育にはインセンティブがあるわけだ。
また皮膚科専攻医の教育も管理職の仕事の一つ。
この教育は科の診療クオリティに直結するので重要度は高い。
しかし大きな問題は「すぐに辞めるので教育は不要」と考える医師が多いことだった。
とは言え医局からはそんな医師への教育が求められている。
そこでモチベーションを維持することは難しかった。
政治力
管理力に人事権はなく、人員の補充などは医局に言われるがままである。
そのため人員の補充は見送られ、優秀な人材は別の施設へ送られる。そんなことが続いていた。
とはいえ与えられた環境で最善を尽くすのが美徳。自分はそう考えて業務に励んでいた。
ところが後に、人事の裏で様々な駆け引きが行われていたことを知った。
政治力のあるリーダーは医局と交渉し、様々な手を打ち、組織力を上げるために最善を尽くしていたのである。
一方の自分は何の政治的なアクションもせず、指をくわえて見ていただけ。
そして組織の戦力は徐々に弱体化していった。
与えられた環境で最善を尽くすだけでなく、環境を整えることもリーダーの重要な仕事…と気づいたときにはもう遅かった。
まとめ
今回は管理職関連の記事をまとめた。
管理職なんて給料は増えないのに責任だけ増える損な立場である。
管理職になんかなりたくないという人が多いのは当然のこと。
しかしこの立場に立つ前と後で価値観が大きく変わったのは間違いない(良い方向かどうかわからないが)。
「苦労は多かったが、得るものも大きかった」と思うことで自分を納得させている。
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