色々な面白い医学書を出版されている國松淳和先生。
今までいくつかの本を紹介してきたが、今回はそれらの記事をまとめたいと思う。
蹄の音を聞いてシマウマを考える方法
診療の現場では、「珍しい病気ではなくて、一般的な病気や命に関わる病気を最初に考えなさい」と教わる。
確かにその通りなのだが「じゃあ珍しい病気はどうやって診断するのか?」という疑問については答えてもらえない、
國松淳和先生の「ニッチなディジーズ」はそんな疑問に答えてくれる、マニアックで面白い教科書である。
ハッキリ言ってしまえば私は「レアモノ好き」なんです。
モンシロチョウの生態調査じゃなくて、オオムラサキのオスを生け捕りにして丁寧に標本にしたいというだけなんですよ。
そんなレアモノ探しは自分の診療のモチベーションである。
詳細はこちら>>皮膚科の面白さはレアもの探し
不定愁訴をみるために必要なこと
総合診療科の醍醐味は、一見不定愁訴に見える身体疾患を見つけ出すことなのではないか。
でも実際は身体疾患は隠れていなくて、ただの不定愁訴だったということのほうが多いだろう。
そんな病気なのか病気じゃないのかわからない、グレーゾーンの患者にスポットライトを当てたのが「仮病の見抜きかた」である。
白黒はっきりさせられない病態というのはよくある。
辛い気持ちになるのは、病気か病気じゃないかを考えなくてはならない時である。
人間の身体はグレーゾーンだらけだ。
そんなグレーゾーンに興味を持てる感性があれば、不定愁訴も含めてもっと臨床を楽しめるのかもしれない。
詳細はこちら>>不定愁訴をみるために必要なこと
診断推論へのアンチテーゼ
診断推論とは、「診断に至るまでの思考プロセス」を体系化したもの。
しかし國松先生は、そんなエレガントな理論に毒されて診断クイズに夢中になる医師が増えていることに苦言を呈されている。
不明・不定に対して、診断推論では「どう診断するか」に主眼がおかれる。
しかし現場で本当に重要なのは、診断がつかず不明・不定のままでいる患者を「どう治療するか」ということにある。
皮膚科でも「病名がつかない状態」はよく経験する。
そのカテゴリーをどう治療するかがプロの本当の実力なのかもしれない。
詳細はこちら>>診断推論について考えた
愛情や思いやりは役立つか?
医療現場のコミュニケーションと言うと、愛情や思いやりなどヒューマニズムの観点から述べられていることが多い。
しかしどれだけ思いやりがあったとしても、診療がうまくいくとは限らない。
「また来たくなる外来」では、コミュニケーションは、あくまで「診療上の良いアウトカムのためのツール」というスタンス。
積極的に話を聞くというのは、優しさでは決してありません。効率化、そして戦術です。
共感さえすれば、ではないのです。
この本の面白いところは、検査や治療もコミュニケーションのツールと考えている点。
実際の現場ではこのようなEBMではない部分も重要である。
詳細はこちら>>また来たくなる外来とヒューマニズムの話
わからないと言えることの価値
一般的に不明熱の診療というと「隠れた原因を見つける」ことが目的である。
しかしこの教科書ではそれだけでなく、色々調べても原因がわからない謎の病態の不明熱が扱われている。
我々は、どんな物事にも必ず原因があると考えがちである。
しかし現実的には、どうしてもわからないことがある。
むしろ「わからない」とわかることが重要なのだ。
この点に踏み込んで、わからない不明熱の対応についても記載されているのが、不明熱レジデントマニュアルの優れた点だと思う。
検査のもれやアセスメント不良といったものは当然除かれて、複数の医療機関で濃厚に精査されてもどの疾患にも分類されないものがある。
筆者はこれを「不明熱中の不明熱」と呼んでいる。
わからないのは悪いこと。これまで受けた学校教育ではそう習ってきたように思う。
しかし経験値が高い人は「わからないこと」を語ることができる。
自分も自信をもって「わからない」と言える医師になりたいものである。
詳細はこちら>>わからないと言えることの価値
プレドニンの使いかた
この教科書はこれまでとは違ってマニュアル色が強いものになっている。
ステロイドの使い方には明確なエビデンスがないので、各々が適当に使っている部分がある。
明確なエビデンスがないため、微妙なさじ加減が重視されている。
そんなステロイドの使い方の「微妙なさじ加減」の部分がまとめられていて、非常に有用な本だった。
このあたりも意識するとステロイド治療の解像度が上がると思う。
詳細はこちら>>ステロイドの虎から学ぶプレドニンの使い方
まとめ
今回は國松先生の著書についてまとめてみた。
これらの本は皮膚科医にとっても学ぶことが多い。
國松先生の本の中で個人的に気に入っているのは、皮膚科の体たらくぶりを(暗に)非難する表現が見受けられること。
不明熱の診断では
皮膚がおかしいとき
ここで皮膚科に紹介しない勇気をもちたい
紹介するなら内科へ(不明熱・不明炎症レジデントマニュアル)
不明熱の診断で皮膚科医が役に立たないことがわかる秀逸なコメントである。
また乾癬の診療では
乾癬は皮膚科の病気ってされてるけど、主な症状が皮膚症状だっていうだけで内科の病気だからね
(あたしの外来診療)
皮膚科医が乾癬という疾患の(生活習慣病も含めた)全体像を把握できていないという鋭い指摘である。
内科医が皮膚科医をどう見ているかが分かり、気が引き締まる思いである。
コメント