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「失敗の本質」から学ぶ③治療におけるプランBの必要性

 

太平洋戦争の日本軍を研究した本「失敗の本質」は医療にも応用できる名著である。

 

失敗の本質から医療を学ぶシリーズ第3弾。

今回はインパール作戦について。

 

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インパール作戦とは

 

ミッドウェー、ガダルカナルの敗戦で東部の戦局が悪化する日本。

さらに西部では、連合国のビルマ奪還作戦が徐々に本格化していた。

 

そこでビルマの防衛を強化するため、防衛線を西へ拡大する作戦が立案された。

これが史上最悪の作戦と呼ばれる「インパール作戦」である。

 

表向きの目的はビルマの防衛強化ではあったが、司令官・牟田口には心に秘めた構想があった。

それは「そのままインドまで侵攻し太平洋戦争に決定的な影響を与える」こと。

当初、大本営は作戦に慎重な姿勢を見せていたが、牟田口の「必勝の信念」に基づく熱意に押されて実行に移されることとなる。

 

この作戦の主軸は「急襲で敵が混乱した隙に乗じて勝敗を決する」というもの。

しかし日本軍の動きは敵軍に察知されており急襲は失敗。

にもかかわらず作戦中止の決断が遅れ、多大な犠牲を出して敗戦。

第二次世界大戦の中で最も凄惨な作戦の一つとなってしまったのだった。

 

失敗の本質

 

このような事態になってしまった理由。

それは失敗時のプランが欠如していたこと。

作戦の成功について疑念を持つことは「必勝に信念に矛盾し、部隊の士気に悪影響を及ぼす」として、失敗時の対応は検討されなかったのである。

 

被害を最小限にくい止めるために、本来は早期に作戦を中止して防衛線を立て直すべきであった。

しかし失敗時のプランが欠如していたため、作戦中止の判断ができず、致命的な敗北となってしまったのだった。

 

作戦で重要なのはうまくいかなかったときの代替案持っておくこと。

これは医療の現場にも当てはまることである。

 

プランBを持っておくこと

 

かつて研修医だったころの話。

 

臨床研修も後半になってくると、診療を任されることも増えてくる。

ある入院患者が熱発し、自分は対応を任された。

まず行うのは血液検査、胸部レントゲン、尿検査。

 

胸部レントゲンで肺に浸潤影がある。おそらく誤嚥性肺炎。喀痰検査を行って抗菌薬はABPC/SBTだろう。

そこまではよかったのだが、ここで戸惑ってしまった。

本当にそれでいいのか…。

 

それまで誰の指示もなく治療を行ったことのなかった自分は、肺炎の診断を自分でつけて治療を開始することができなかったのである。

 

当時の自分は手技や知識が身につき、何でもできる気になっていた。

しかし判断が必要な状況に放り出されると、実は何も出来ないことを自覚させられた。

 

自分がもっていたのは、「上司の指示を実行する能力」にすぎなかったのである。

指示に沿って病棟をそつなく回せる能力と、スタンドアローンで患者を診る能力は全く別。

ここで重要なのは、うまくいかなかったときのプランBを持っているかどうか。

 

一見典型的な肺炎の患者。

しかし、もし抗菌薬の効果が乏しかったらどうすればいいのか。

耐性菌?膿瘍を形成している?診断が違う?

この辺りのプランまで持っておくことで、ようやく一人で診療を行うことができるのである。

 

まとめ

 

臨床をやっていると、代替案の重要性を実感することは多い。

そのような代替案をもっておくトレーニングを積めたのは大学院時代だったように思う。

 

臨床ではなんとなく行った治療がうまくいくことがあり、それで結果オーライである。

しかし研究で重要なのは再現性。

実験が偶然うまくいったとしても、再現性がなければ失敗と同様である。

そしてうまくいかなかったときに(うまくいかないことがほとんど)どんな実験を行えばよいかを、あらかじめ考えておかなければならない。

ネット上では大学院不要の意見が多いが、個人的には無駄ではなかったと思っている。

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