前回のつづき
知り合いの内科医が急性期病院を辞めて、慢性期病院に移ったという話を聞いた。
理由は色々あるようだが、救急の負担もかなり大きかったとのこと。
赤字解消のため救急車の受け入れを増やそうとする病院側と、マンパワー不足の現場とのギャップが大きかったらしい。
そういう病院は結構多いんじゃないか。
この流れは現場の負担を増やすだけでなく、医療費を増加させるため問題があると思う。
今回は公立病院の生き残り戦略と日本の医療について、皮膚科医が真面目に語る。
赤字病院の生き残り戦略
いま公立病院のほとんどは赤字だという。
総務省がまとめた2016年度の公立病院の経営状況によると、経常収支が赤字の病院は全体の61.7%だった。比率は6年連続の増加。
現在のシステムでは普通に診察をしていれば赤字になる構造になっている。
そのため各病院はそれぞれの経営努力で黒字化を目指す必要がある。
しかし医療サービスの価格は国によって決められている上に、年々引き下げられており、経営努力で解決できる部分は大きくはない。
病院にできる努力は入院患者数を増やすことくらいである。
そこで現在、我々勤務医が経営陣から指導されていることは
- 「不安だから」とか「介護が負担だ」という理由の社会的入院を積極的に受け入れる
- どんな軽症でも救急車をたくさん受け入れて、入院させる
という対策である。
社会的入院を増やせば売上は上がるが、点数が低いため利益は上がらない。
しかしとにかく売上を増やすことを目標にしているようだ。
「断らない救急」というスローガンが掲げられることが多いが、患者のためを思ってではなくて、救急車を囲い込んで入院患者を増やすことが目的である。
この流れは時代に逆行している。
財政破綻した夕張市をはじめとして、様々な地域の医療を立て直した村上智彦先生の本を読むと、これからの医療が本来向かうべき方向が見えてくる。
日本医療の再興戦略
村上先生によると、健康のためには「医療の充実」は必要なく、介護などを充実することの方が重要だという。
日本は根本的に医療過剰である。
日本の多くの地域では「大病院至上主義」に陥り、地域コミュニティ内で解決可能な健康問題までもが大病院に持ち込まれる事態が起こっています。
医療費を削減するためには、病院の規模を縮小して医師中心のキュアよりもケアの比重を高めることがカギになる。
具体的には
- 社会的入院を減らす
- 不要な救急搬送を減らす
- 予防医療を充実させる
などである。
まず社会的入院が医療費を押し上げている。
北海道の瀬棚町は高齢者の医療費が4年連続日本一を記録するというとんでもない地域でした。
医療費が高い原因を調べると、「不安だから」「介護者がいない」という理由の「社会的入院」費用がかさんでいることがわかりました。
最強の地域医療
そして不要な救急搬送も医療費をムダにしている。
やたらと救急車でやってくる人が多く、「タクシーだとお金がかかるから」、「待ち時間がなく診察を受けられるから」という自己中心的理由からでした。
医療にたかるな
これらの対策を行うことで、医療費を大幅に減らすことに成功したそうだ。
肺炎予防などの予防医療、在宅医療の充実や救急車出勤回数の減少により、医療費も減少しています。
現場と経営のジレンマ
現在日本の医療が目指すべき方向と、病院が目指す方向が逆であることが問題だ。
医療費削減のための対策
- 社会的入院を減らす
- 不要な救急搬送を減らす
病院の売上増加対策
- 社会的入院を増やす
- 不要であっても救急搬送を増やす
今後の高齢化する日本の医療に必要なことは「医療費をいかに減らすか」だが、公立病院の経営が成り立たない現状ではうまくいかないだろう。
病院が経営努力を行えば行うほど医療費は増加してしまう。
自治体病院が黒字であるということは本当に良いことなのでしょうか。
自治体病院が大黒字で、国保の財政が大赤字という方が最悪の医療です。医療にたかるな
病院の経営陣からは、毎月の会議で「何があっても救急車を断るな」「入院患者を増やせ」と言われ続けているが、腑に落ちない部分が大きい。
そこまでしないと病院が存続できないシステムは間違っていないか…。
このジレンマを解決する方法はあるのか…と高齢化の最前線で考えている。
コメント