「他の皮膚科に行ったけど治らない」といって受診してくる患者は多い。
その中にはしっかり外用をしていない患者が結構いて、外用指導をするだけで治ってしまう。
これは一概に患者を責められない。
皮膚科医は、ただ軟膏を処方するだけではなく指導法も工夫しなければならない。
外用指導の工夫
- 正しい塗り方、量、期間
- モチベーションを上げる
- 納得してもらう
そこで今回は外用指導で使えそうなテクニックをいろいろな教科書や論文から集めてみた。
正しい塗り方、量、期間
まず大事なのは外用薬を正しく使ってもらうための指導法である。
そして途中でやめてしまわないように注意しないといけない。
1. 塗り方を実演すること
実際に外用処置を行って、塗り方を実演するというのが一番わかりやすい外用指導。
初診時は診察にあわせて外用処置を行う。
Visual Dermatology 13(6) 670-671, 2014
前医で十分な強さのステロイドを処方されているにもかかわらず「治らない」「効かない」という方がよくいらっしゃいます。
よく聞くと恐くて十分に塗らなかったというのがほとんどで、いかに薬の塗り方の実演しながらの指導が必要かということを思い知らされます。
皮膚病診療28(9) 1105-1120, 2006
大学病院や市中病院ではスタッフの数が少ないので難しい場合も多いが、開業したら是非やりたいと思っている。
2. 再診予約を入れること
治る前に患者が外用を止めてしまい再燃を繰り返すということがある。
多くの患者は痒みが減った時点で、塗る回数を減らしたり、外用を中止したりすることが多い。
重要なことは、病変がなくなるまで手を抜かずに外用を続けることである。
皮膚病診療28(9) 1105-1120, 2006
正しい塗り方をしていても途中で止めてしまったら意味がない。治るまでしっかり塗ることも大事である。
次回の受診日を設定することで、それまで外用を継続してもらえる可能性が高くなると思う。
私は2度目の受診は「何が何でも1週間後」としている。最初の1週間は、こちらの指示通り患者に外用してもらう。「良くなったら中止」とか「軽快したら弱い薬を」という中途半端な指示は一切出さない。
アトピー性皮膚炎診療が楽しくなる!―Q&Aで考える実践治療
万が一途中でサボっていても予約日の直前は塗ってもらえる可能性が高い。
患者さんの外用行為は受診後日が経つにつれておざなりになるようです。しかし、予約日が近づくとまたきちんと塗るようになるという報告があります。
予約を入れたほうが薬がよく効くような印象があります。
(どう診る?どう治す?皮膚診療はじめの一歩〜すぐに使える皮膚診療のコツとスキル)
3. 残った薬の量を確認すること
それでも治っていないときは残った薬の量を確認して、しっかり塗れているかを把握する。
1週間後には再診させ、あまり軽快していないときには、外用薬が何本残っているかを聞くべきである。
皮膚科の臨床59(10) 1517-1526, 2017
自分はここまでしたことはないが、空のチューブを持ってきてもらうのが一番確実な方法。
処方された薬剤の現物を持参してもらって使用量を確認することも、きちんと外用できているかを知るために大切だ。
Visual Dermatology 13(6) 670-671, 2014
モチベーションを上げる
軟膏を塗るのは結構大変だ。
正しい塗り方は分かっていても、やる気がなければ治療は続かない。
モチベーションを上げるための小技をいくつか紹介。
4. 薬の種類を変えること
ドクターショッピングしてきた患者には、違うメーカーの薬を処方した方がモチベーションが上がる可能性がある。
せっかく医師を変えたにもかかわらず、出されたものが前医と同じ薬であると、薬を塗る気が高まりません。
ですから前医とは違う薬を投与する必要がありますし、前医が処方した薬が何かを確認しておかなくてはいけません。
(かかりつけ医のためのこどものアトピー性皮膚炎診療&スキンケア指導)
よくならないといって来院した患者には、前医で使われていたものと別のメーカーの軟膏を処方していた。
つまり、ここで処方する外用薬は他院のとは違う、よく効くことを印象つける意図があった。
皮膚病診療31(2) 231-245, 2009
実際にメーカーが変わっただけで症状が改善するというデータもある。
【関連】「お手軽、軟膏ローテーション療法」 外用のモチベーションを上げる方法
5. ほめること
主に慢性疾患になるが、ほめることは有効である場合がある。
もし症状が軽快してきたら「一生懸命よく塗ったね」「お母さん大変だったでしょう」などと誉めましょう。さらに効果が上がるはずです。
(どう診る?どう治す?皮膚診療はじめの一歩〜すぐに使える皮膚診療のコツとスキル)
何歳になってもほめられたら嬉しいはず。自分もほめられたい。
症状が軽快した患者さんを「ほめる」ということは意識しています。人は何歳になってもほめられるということは喜ばしいことではないでしょうか。
症状が軽快したことを患者と喜び、「きちんと治療されたからよくなりましたね」と言葉に出していうことでコンプライアンスやアドヒアランスも向上するのではないかとひそかに考えています。
皮膚病診療31(2) 231-245, 2009
納得してもらう
患者が治療に対して半信半疑だと正しく外用薬を使用してもらえる可能性は低いだろう。
いかに信用してもらい、納得して治療をしてもらえるかも重要なポイントである。
複数の医療機関を同時期に受診する患者さんが増えていると感じることが多い。
診断はした、処方もした、でも患者さんの不安を取り除いていないケースがこういう事態を生んでいるのかもしれない。
臨床皮膚科 63(5) 110, 2009
6. 患者の不安を取り除くこと
患者の不安に思っていることに答えることで、信用を勝ち得ることができる。
また「どれくらいで治るのかの目安」を伝えておくとモチベーションが上がりやすいんじゃないかと思っている。
患者さんの3大質問「うつるのか?」「内臓が悪いのか?」「風呂に入って石鹸を使っていいのか」に丁寧に答える。
今後の見通し(かゆみ、痛みはいつとれるのか?)を立て患者さんの不安を取り除く。
臨床皮膚科 63(5) 110, 2009
7. 自己診断を聞くこと
患者は受診前に「昨日の食べ物が悪かったんじゃないか」とか「薬のアレルギーだと思う」とか自己診断をしていることが多い。
自己診断と医師の診断が違うと、納得せずに違う病院へ行ってしまう可能性が出てくる。
思い当たる原因についてこちらから尋ね、それに対してきちんと答えておくことは大事だと思う。
8. さわること
外用指導とは少し異なるが、丁寧な診察で患者の心証をよくしておくと塗ってもらえる可能性が上がるだろう。
特に皮膚をさわることで「丁寧に診察してもらった」と思ってもらえることが多い。
さわりながら症状を伝える
部分ごとの症状について「ひどい」「軽い」「とてもよくなった」など医師が受けたインプレッションを、言葉にして相手に聞かせることが、治療への熱意をもたせる一つのコツになります。
(かかりつけ医のためのこどものアトピー性皮膚炎診療&スキンケア指導)
まとめ
外用指導と診察のテクニックについて、いろいろな本や論文で読んでよさそうだと思ったものをまとめてみた。
現在医療はOTC化の流れがあり、今後は皮膚科もセルフメディケーションが進んでいくと思われる。
そこで皮膚科医がドラックストアと差別化できる点は外用指導なんじゃないかと思っている。
▼外用療法についてのまとめはこちら▼
今回紹介した本
主にこどもの診察法について書かれているが、大人の診察にも応用できることが多い。
手ごわいアトピー患者とのやりとりの詳細が書かれた骨太な本。
皮膚科入局1年目向け。
あわせて読みたい
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▼ステロイドの詳しいランク表▼
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