ミステリーベスト10のネタバレ感想シリーズ。
今回は京極夏彦のデビュー作「姑獲鳥の夏」。
正統派のミステリーではないが、読んだときのインパクトは絶大で忘れられない作品となっている。
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姑獲鳥の夏のあらすじ
あらすじ
小説家である関口巽は、久遠寺医院の娘にまつわる奇怪な噂を耳にする。
娘は妊娠20か月たっても出産する気配がなく、その夫は一年半前に密室から失踪したという。
関口は失踪した夫・牧朗の捜索のため探偵の榎木津礼二郎と共に久遠寺医院へと足を踏み入れる。
そこで待ち受けていたものは――
20か月妊娠している妊婦など、何やら怪しげな雰囲気である。
さらに一癖も二癖もある登場人物たち。
- 中禅寺 秋彦:古本屋を営む陰陽師。あだ名は「京極堂」。
- 関口 巽:精神を病んだ小説家。ワトソン的役割。
- 榎木津 礼二郎:人の記憶が映像として見える超能力者。能力を生かして探偵をしている。
▼マンガ版より▼
冒頭から数十ページに渡って延々と続く「脳と認知」についての話には出鼻をくじかれる。
話は心理学、脳科学、民俗学、宗教から量子力学、さらには妖怪にまで及ぶ。
ここが本当に読みにくくて、いきなり読むのを諦めてしまいそうになる。
しかしそこを読み飛ばしつつも乗り越えられれば、衝撃の密室トリックを体験することができる。
以下ネタバレあり
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姑獲鳥の夏のトリックネタバレ解説
密室からの人間消失トリックの正体は
「死体を知覚できなかった」というもの。
死体がずっと部屋の真ん中に放置されていたが、それを認めたくない人たちには認知できなかった。
つまり本当は人間は消失しておらず、密室トリックは存在しなかった。
一歩間違えばバカミスになってしまう完全にアンフェアな仕掛けである。
しかし小説の奇抜な設定が、すべてこのトリックを成立されるために構成されていることに気付けば、とんでもない作品であるということが分かる。
姑獲鳥の夏の設定
- 数十ページのウンチク
- 見えないものが見える探偵
- 精神を病んだ主人公
それぞれの設定について考えてみる。
①ウンチク
冒頭から延々と続くウンチクは、小説の雰囲気作りのためだけではなくて、トリックを説明するために存在していると思われる。
木を隠すなら森の中。
ウンチクの中に、さりげなく伏線が張られている。
仮想現実と現実の区別は自分では絶対につけられないんだよ。
我々は脳の選んだ、偏った僅かな情報のみを知覚しているだけなんだ。
②見えないものが見える探偵
強烈な個性をもつ、人気キャラの榎木津探偵。
スピンオフ「百器徒然袋」では主人公も務めている。
「見えないものが見える」探偵は、「見えるはずのものが見えない」人たちのカウンターパートとして存在すると考えることができる。
榎木津の存在自体が伏線になっている。
さらに榎木津の存在がミスリードにもなっている。
死体を目撃した場面
榎木津「僕にはあんなもの直視できないよ。君にだって見えただろう!」
関口「生憎何も見えやしなかった。榎さんみたいに人に見えないものが見えたりはしないんだ!」
榎木津「お前本当に大丈夫か?」
普段奇行が多い榎木津だけに、これらのセリフも奇行の一種かと思われた。
オオカミ少年状態。
本当はまわりの人たちが異常で、榎木津の方がまともだった。
③精神を病んだ主人公
主人公の関口は精神を病んでおり、記憶が錯乱している。
ここは、来たことがある。
確かあのときは壊れてなどいなかった。
あのときとはいつだ?
私は耳鳴りをおぼえた。
この設定も小説の怪しげな雰囲気作りのためのものかと思われたが、「主人公も死体が認知できない」という状況に説得力を持たせるための仕掛けだと考えられる。
まとめ
この小説の奇抜なキャラクターや設定、長いウンチクなどはすべて一つのトリックを成立されるために作られている。
ただの雰囲気小説ではない、尖った個性をもつ「姑獲鳥の夏」。
このインパクトは他には代えがたい玄人好みのミステリーである。
小説としての面白さや完成度は「魍魎の匣」の方が上だと思うが、ミステリーとしての価値はこちらのほうが高いだろう。
普通のミステリーに飽きてきた人にオススメ。
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