自分がこれまでに強い影響を受けた先生は2人いる。
一人は内科医のブロガー、medtoolz先生。
【関連】臨床で必要なことはすべてmedtoolz先生から学んだ
そしてもう一人が精神科医の春日武彦先生である。
研修医のときに強く感じていたのは、医療現場の建前と現実のギャップ。
偶然手に取った春日先生の本で、そこが鋭く指摘されていてファンになった。
主に精神科の話なのだが、医療全般に応用できる考え方であった。
それから春日先生の著書や教科書を読み漁り、自分の臨床のスタンスが確立していったような気がする。
今回は春日武彦先生の著書から自分が学んだことを、コミュニケーション編と診療技術編に分けてまとめてみる。
コミュニケーション編
1. 言うことを聞いてくれない患者から学んだこと
こちらの言うことをまったく聞いてくれない患者が時々いる。
自分は「患者のためを思って言っているのに!」「なんで信用してくれないんだ!」とやるせない気持ちになった。
しかし春日先生は医療者の「あなたのためを思って」という感情に対して警鐘を鳴らしている。
人間の業においてもっとも厄介なのは、他人を思い通りに操作して満足感を得たいというコントロール願望です。
優しくしたり、説得するという行為には、自分のコントロール願望を満たしたいという気持ちが伏在していることを自覚しておくのが賢明です。
詳細はこちら>>言うことを聞いてくれない患者から学んだこと
2. 今まで来たことがないのに突然クレームを入れる家族の話
今まで来たことがなかった入院患者の家族が突然クレームを言ってくるということは、とてもよくある話。
春日先生はこのような家族の心理の裏には、患者を病院まかせにしている後ろめたさが隠れていると考察されている。
かれら家族は患者を「病院まかせ」にしている後ろめたさに対して「攻撃は最大の防御」を実践し、おまけに日頃から蓄積していたストレスやら鬱憤の「捌け口」として言いたい放題を行っているように感じられた。
詳細はこちら>>今まで来たことがないのに突然クレームを入れる家族の話【カリフォルニアの親戚】
3. 精神科医より学ぶクレーマーの対応法
診療をしていると理不尽なクレームに遭遇することもある。
いきなり喧嘩腰。何を言ってもキレる。診察後はしっかり病院にクレーム。
その一人のせいで外来診療が嫌になる。
春日先生によると、クレーマーは「境界型パーソナリティ障害(BPD)」に該当するケースがあるのだという。
BPDを学べばクレーマーへの対応に役立つはずである。
いわゆるクレーマーとかモンスターペイシェント、さらにはストーカーの多くがBPDに該当するはずである。
かれらは、ときおり激しい衝動性や攻撃性を示す。また他人を翻弄したり組織を混乱に陥れるようなトラブルメーカー的側面が強い。
4. 患者の心をつかむ演出力
「医療」という商品の価値には2つの側面がある。
- 病気を治すという確実な医療の要素
- サービスをしてほしいという、サービス業本来の要素
特にクリニックを開業するとなると、サービス業の要素が重要になるだろう。
大学で習うのは「患者さんの話をよく聞きましょう」といった傾聴の重要性。
しかし外来ではそんなに長く患者の話は聴いていられない。
実際には傾聴する時間と患者の満足度は比例しないという。
教科書を読むと「傾聴」という言葉が強調されている。全身全霊を込めて患者の話を聴くことが重要であると述べられている。
だが精神科医は、そんなに長く患者の話を聴いていられない。平均で5分程度であろう。
短時間でもその範囲で患者に満足感をもたらす技量を持ってこその名医であるといった発想も成り立つだろう。
詳細はこちら>>患者の心をつかむ演出力「診療中でも笑顔が大事」
5. 家族をユニットとして治療する
自分は精神医学に興味があって、むかし精神科への入局も考えたことがあった。
でも実際に精神科の診療をみてみると、若干イメージと違っていた。
それは治療が患者本人だけでは完結しない、さらに言えば医学だけでは完結しないことだった。
精神科医となり、患者個人のみならず家族をユニットとして捉えて治療を行うようになった。
詳細はこちら>>不定愁訴をみるために必要なこと
診療技術編
6. 名医になるための3つの条件
春日先生が名誉教授の診察をみたときの話。
いつも同じ薬しか出さないが、治癒率は高かったという。
この話から皮膚科の名医とはどんなものかを考えてみると、名医には3種類がありそうだ。
- オーラの名医
- データの名医
- こだわりの名医
詳細はこちら>>名医になるための3つの条件
7. 暗示療法で治すイボの話【信じるものは救われる?】
「暗示療法」と聞くと何だかカルトな印象を受ける。
しかし「暗示療法」は皮膚科の診療現場では、教科書にも記載されている、れっきとした治療法である。
そして暗示は気合が入っていたほうが効きやすいという。
意外にも、春日武彦先生も気合の重要性に触れられている。
自分なりの経験や手ごたえに裏付けられていると、医療者としての自信や信念となって患者へ提示されることとなる。すなわち気合が入っているので、意外にも良い結果が出やすい。
この事実をもっとくだけた言葉で言えば「気合で治す」ということになるだろう。
詳細はこちら>>暗示療法で治すイボの話【信じるものは救われる?】
8. 「経過観察」は奥が深くて難しいという話
診療をしていると「経過観察」を行わないといけない状況が生じる。
「その場では判断できないため、時間をおいて判断する」ということだが、患者が不信感を持つこともある。
そんな「待つ」ときにこそ医師の実力が問われるのだという。
客観的にみれば、待っているのか放置しているのか区別はつきにくい。だから気まずい。不安になる。
援助者の実力はそうしたときに問われる。待つためには、相応の経験や自信がいる。自分の方針をきちんと説明できるだけの頭の整理がついているということである。
詳細はこちら>>「経過観察」は奥が深くて難しいという話
9. 医者として停滞しないための勉強法
ずっと外来診療を続けているとマンネリ化してしまうこともある。
ルーチンワークになってしまわないように、仕事を「経験」として蓄積していく必要がある。
そのために心がけるのは、いくつもの未解決ケースを抱えることである。
いくつもの未解決ケースを抱えることは、うんざりした気分につながるかもしれない。しかしケースをある程度の数だけこなすと、急に見えてくるものがある。
今までは未解決のケースがごちゃごちゃと山積みされていただけだったが、その中にパターンが潜んでいることを知る。
ひとつが首尾よく解決したとすれば、同時に全部解決する可能性が見えてくる。
詳細はこちら>>医者として停滞しないための勉強法
10. 治療法がない病気をどうみるか
「患者を救うことが生きがい」なんて言ってる医者をたまに見かけるが、多少胡散臭く感じてしまう。
皮膚科は慢性疾患が中心なので、治る病気はあまり多くない。
精神科医療の分野でも「はい、治りましたよ!」と言えるケースは稀らしい。
診断もはっきりしなければ治療も劇的に効くわけではない。でもそういう中に面白みを見出せるシニカルさが重要なんだと感じた。
患者さんの話に耳を傾けるなんて誰にでもできます。
しかし誰にでもできるようなことをしているのに誰もが達成し得るわけではない結果を引き出すところにこそ、精神科医の喜びがあると思いますね。
詳細はこちら>>治療法がない病気をどうみるか
11. 後医は名医の落とし穴
「後医は名医」という言葉がある。
後で診察した医師は、病歴が蓄積されていて、症状もはっきり出ていることが多いので診断をつけやすい。
つまり患者を最初に診た医師(前医)よりも、後から診た医師(後医)の方が必然的に名医に見えてしまうのである。
そして運良く後医になれたとき、患者から過度に感謝をされることがある。
「今までかかっていた医者はとんでもなかった。先生に出会えてよかった」、と。
しかしここで「オレは患者の心をつかむのがうまい」と自惚れてしまうと、とんでもないしっぺ返しを食らうことになる。
何かの拍子に意に沿わないことが起きると、手のひらを返したように態度が変わる。今度は相手を敵とみなして、悪口を言いはじめたり仕返しをしてきたり。
詳細はこちら>>イキリ研修医と後医は名医の話
まとめ
春日先生の本を読んでいると、皮膚科と精神科は似ている点が多いと感じる。
慢性疾患が主体であるからだろう。
精神科的考え方を導入できれば臨床の力が上がるかもしれない。
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