褥瘡、潰瘍治療に用いられる外用薬はたくさんあるが、多すぎてわかりにくいことも多い。
理解のコツは外用薬を3種類に分けること。
- 水溶性基剤
- 乳剤性基剤
- 油脂性基剤
今回はこれらの使い分けについて簡単にまとめてみた。
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外用薬の成り立ちと使い分け
外用薬は主剤、基剤、添加物の3つからで成り立っている。
(外用薬)=(主剤)+(基剤)+(添加物)
基剤は主に3種類しかないが、主剤(薬効成分)を変えることでたくさんの外用薬が作られている。
しかし外用薬の99%は基剤で、主剤は1%にすぎない。
そのため外用薬を使うときは「基剤が何なのか」の方が重要である。
基剤の種類3つ。
- 水溶性基剤
- 乳剤性基剤
- 油脂性基剤
極端な言い方をすると潰瘍治療において薬効成分はおまけで、治療薬は3種類しかないともいえる。
それぞれの特徴は
- 水溶性→吸水性作用(水を減らす)
- 乳剤性→補水性作用(水を増やす)
- 油脂性→皮膚保護・保湿作用(水を保つ)
これらを創部の水分の状態に応じて使い分ければよいということである。
創面の水分量
傷の治癒のために重要なのは、創面の水分量を適切に保つこと。
乾燥しすぎても、浸軟しすぎても治癒が阻害される。
創面の水分率を70~80%に保つのがよいとされている。
(治療 79(10): 185, 1997)
ガイドラインに示されている外用薬は約20種類。
これらを基剤で整理すると、だいぶクリアカットになる。
そして創面の水分量に応じて基剤を選べば、大きな間違いはないと思われる。
とはいえ基剤別の外用薬使い分けについて、もう少し詳しく書いてみる。
基剤別使い分け①水溶性基剤
水分を減らす水溶性基剤。
水溶性基剤の中で代表的なのはヨウ素を含有した製剤。
ユーパスタ軟膏、カデックス軟膏、ヨードコートの3つは比較的よく目にすると思う。
いずれも水溶性基剤で主剤はヨウ素。3つの製剤の違いは添加物の違い。
基剤(水溶性基剤)+主剤(ヨウ素)+添加物
- ユーパスタ:白糖
- カデックス:ポリマービーズ
- ヨードコート:CMC
これらを比較したデータがいくつかある。
吸水性の比較
まず吸水性について。
ユーパスタの吸水性が一番高いようだ。
吸水性:ユーパスタ>ヨードコート>カデックス
(日本褥瘡学会誌 13(1): 24, 2011)
ユーパスタに含まれる白糖は、浸透圧の上昇による吸水作用が期待できる。
また白糖はコラーゲン産生を促進させる効果があり、潰瘍の縮小作用もあるかもしれない。
これらの効果はけっこう侮れない。
▼線維芽細胞のコラーゲン産生能(添加48時間後)▼
(Therapeutic Research 23(8): 1625, 2002)
抗菌能の比較
ヨウ素の放出能はカデックスが高い。
ヨウ素放出能:カデックス>ヨードコート>ユーパスタ
▼遊離ヨウ素濃度の比較▼
(Journal of Pharmaceutics, 394(1-2): 85, 2010)
またカデックスは持続的にヨウ素を放出するため、長時間抗菌能が維持されるとの報告もある。
(日本褥瘡学会誌 11(4): 528, 2009)
しかし上で書いたように、自分は吸水性のほうを評価したい。
基剤別使い分け②乳剤性基剤
水分を増やす乳剤性基剤。
基剤に含有される水分量が重要になる。
乳剤性基剤には2種類ある。水がメインの水中油型、油がメインの油中水型。
- 水中油型(O/W型)
- 油中水型(W/O型)
当然O/W型の方が水分含有率が高い。
水分含有率
■O/W型
- ゲーベンクリーム:67%
- オルセノン軟膏:73%
■W/O型
- リフラップ軟膏:21%
- ソルコセリル軟膏:25%
(日本褥瘡学会誌 11(2): 92, 2009)
補水を目的とするならO/W型がよいだろう。
基剤別使い分け③油脂性基剤
水分を保つ油脂性基剤。
油脂性基剤は白色ワセリン、プラスチベース、単軟膏の3種類。
- 亜鉛華単軟膏:単軟膏
- プロペト:白色ワセリン
- ゲンタシン軟膏:白色ワセリン
- アズノール軟膏:白色ワセリン+ラノリン
- プロスタンディン軟膏:プラスチベース
単軟膏は硬く、皮膚に固着することがあるため、個人的には第一選択としては使いにくい。
よって白色ワセリンかプラスチベースが基剤の外用薬が望ましい。
アズノール軟膏は基剤に含まれるラノリンが接触皮膚炎を起こす可能性があるため、やや使いにくい。
ゲンタシン軟膏は短期間ならよいが、長期使用する場合は耐性菌出現のリスクがある。
またプラスチベースは粘性が強いため、皮膚に密着して洗い流しにくいのが若干気になる。
プロペトが一番無難である。
まとめ
創傷治療の原則と外用薬の使い分けについて、おおまかに解説した。
褥瘡の治療では、まずワセリン、ユーパスタ、ゲーベンの3種類を使いこなすことが大切である。
最近は色々なドレッシング材もでてきているが、慢性期病院などでは使えないこともあり、外用加療が主体になる場面も多いだろう。
基剤による使い分けを知っておけば、様々な傷に対応できるはずだ。
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