月一回アップしている書評記事「皮膚科医の読書記録」の中から★4以上の本をまとめました。
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★5
サピエンス全史
まだ読んだことない人がいたのか…と言われそうだが、噂にたがわぬ名著だった。
硬そうな見た目だけど、学術書ではなく歴史エッセイという感じ。
250万年前から現在に至る人類の歴史が、多岐にわたる学問の知識を用いて語られている。
生物学、遺伝学、心理学、宗教学、経済学、さらにはSFまで。
にもかかわらずストーリー性があって読みやすく、とても面白い。
人類を変えた3つの革命、認知革命、農業革命、科学革命。それぞれがいままでの価値観をひっくり返すような内容だった。
知的好奇心が刺激される優れた書籍である。
ただ筆者が一番書きたかったテーマ「これからの人類についての考察」は若干ありきたり感があった。これはすでに過去の優れたSF作品で議論され尽くされている。「攻殻機動隊」とか「銃夢」とか。
ニュータイプの時代
「これからの時代に必要な新しい思考様式とは?」という比較的ありきたりなテーマ。そしてその新しい思考も「ビジョンが大事」みたいなありきたりなもの。
でもこの本はスゴイ。
何がすごいのかというと「説得力」。
ニーチェやケインズなどの幅広い学問を駆使して、なぜその思考が必要なのか解説されている。
そのロジックの組み立て方が驚異的で、納得度が高い。
知識をひけらかしているワケではないのに、筆者のとてつもない知識量と論理力、文章力を感じさせるスゴイ本である。
キャリアに悩む人は読んでおくべき。
正義の教室
難しい哲学の話を、小説形式でここまで興味深く読ませる書籍は他にはないんじゃないか。
飲茶先生は稀代のストリーテラーだと確信した。
わかりやすく解説しただけの本はあるかもしれないが、身近な日常のテーマと絡めたところに凄さがある。
とにかく分かりにくい構造主義、ポスト構造主義についても、「普遍的な正義はあるのか?」という軸で解説されるとスッキリと理解できた。
「14歳からの哲学入門」とかである程度基礎知識を学んだ後だと、このわかりやすさに感動すると思う。
そして賛否両論のラスト。
一面だけでは評価できない物事の複雑性を学んだ後だと、単純に否定はできないんだよな。それを否定する正義は正しいのか・・という。
暇と退屈の倫理学
これはスゴイ本。
万人に勧められるものではないけど、何となく仕事が頭打ちになって、満たされない気持ちを抱えている人は読んでおくべき。
満たされない気持ちとは退屈の問題である。
そんな悩みはすでに何百年も前から、哲学者によって議論し尽くされていたわけだ。
この本は退屈について、様々な哲学者の考察がこれでもかというくらい掘り下げられている。それでいて難しくなく、とても分かりやすい。
我々は退屈を感じたとき、新たに何か打ち込めるものを探すべきなのだろうか。
パスカルによるとそれが人間の不幸の原因なのだという・・。
長くなりそうなので、また別にブログ記事にまとめてみたい。
★4(1月)
人事のプロが教える 働かないオジサンになる人、ならない人
タイトルからはどんな内容かわかりづらいが、想定読者はおそらくキャリアに悩むアラフォー世代。
20代から30代では目の前の仕事に懸命に取り組むことで、成長の実感や満足感を得ることができる。
しかし40歳を目前にして仕事に一定のメドがつくと、働く意味に疑問を持ったり、面白みを感じなくなってしまうことが多いのだという。
これはまさに自分のことで、かなり刺さる内容だった。
ただしどう乗り越えればいいのかについては、漠然としたアドバイスしか書かれていない。
それは自分で考えなさいということだろうな。
★4(2月)
マーケット感覚を身につけよう
ちきりんはアイコンは一見ポップなんだけど、意見はかなり尖っている。
そして抽象的な概念を具体化して説明するのが抜群に上手い。
この本も身近な具体例がたくさん挙げられていて、とてもわかりやすいし納得度が高い。
マーケット感覚、つまりビジネス感覚を持つことの重要性が述べられている。
一生使える専門性を身につけて、それにすがって生きていくというライフプランは難しくなる。
自分もまさにそんな価値観で生きているのでハッとさせられた。
これから重要になるのは自分のスキルをビジネスにして稼ぐ能力である。
ブログやツイッターはマーケット感覚を磨くのに多少は役に立つかな。
読書を仕事につなげる技術
独学で経営コンサルタントになった筆者が、読書を通じた勉強法を解説した本。
一流になるためには仕事に直結しない教養を学ぶ必要がある。
教養がない人は、勉強していても言うことが陳腐で知性や感性を感じさせないそうだ。
これには自分も反省させられた。
しかし筆者の読書術は凄すぎて真似し難い部分がある。
何十冊も同時に読んで、読みがいのある本をスクリーニングする。そして読みがいのある本を見つけたら繰り返し読むという方法。
挑戦してみたいが、どこまで取り入れられるのかはわからない。
ラーメン発見伝
有名なグルメマンガ。
特筆すべきはラーメンのビジネスの側面も描かれていること。
美味ければいいというわけではなくて、ビジネスとして成り立ってこそという視点があるので、ビジネスマンガとしても面白い。
飲食店を志す人は必見と言われていて、クリニック開業にも役立つかもしれない。
ただラーメンのウンチク8割、ビジネス2割くらいなので、ラーメンのウンチクにあまり興味がない自分には悠長に感じられる部分もあった。
メイドインアビス
映画公開を機にアニメを視聴し、原作も読んでみた。
可愛らしい絵柄とは裏腹にかなりダークなマンガだった。
最初は冒険8割、ダークさ2割くらい。
序盤は遠慮してたようで、だんだん作者の地が出てきて、5巻以降は完全なダークファンタジーになった。
ベルセルクよりエグイかもしれない。でもこれは嫌いじゃない。
★4(3月)
思考の整理術
数年前に読んだ本だが再読してみた。
もともと名著だと思っていたが、今回さらに評価が高まった。
当時は研究者目線だったが、今はブログをやっているのでコンテンツ制作者の目線で読めて有用性が増した気がする。
コンテンツ制作に使うのが本来の用途なのだろう。記事を書くためのヒントが詰まっている。
ブログを書く人は必読。
革命のファンファーレ
キングコング西野が作った絵本は、なんと40万部を超える大ベストセラーになっているそうだ。
どうやってそんなに絵本を売ったのか、その裏側が詳細に解説されている。
広告戦略が従来のマスメディアを使ったものではないところが面白い。
無料公開や個展の開催、自費購入1万冊など、話題作りを徹底して行う。
さらに絵本の形をインスタにアップしやすい正方形にしたり、ハロウィンに絡ませるために渋谷をモデルにしたり、売るための仕掛けが満載である。
いいものを作れば売れるという時代ではない。アートの世界でもビジネスの視点は重要だろう。
コンテンツ作りをする上での、新しいマーケティング手法について学べる良書だと思う。
★4(4月)
14歳からの哲学入門
14歳向けの哲学の解説書かと思いきや、そうではなくて中二病的観点から哲学史を解説するという趣旨の本である。
中世から現代までの哲学史がわかりやすく、かつ面白く描かれていて「哲学の面白さを知ってほしい」という筆者の気持ちが伝わってくる良書。
最近の哲学は経済学と密接に結びついているようだ。特にボードリヤールの「記号消費社会」の概念ついては考えさせられる。
またニートの存在から次世代の哲学について考えるという話もあり、荒唐無稽なようだが「ニートの歩き方」なんかを読むと案外的外れではない気がする。
飲食業界 成功する店 失敗する店
飲食店プロデュースを手掛ける著者が飲食店の成功例と失敗例を解説。
この手の本はコンサルタントの宣伝本になりがちだが、結構実用性が高そうだった。
失敗談は成功談より役に立つ。
スタッフの不倫とか売上金を盗むスタッフとか、かなり突っ込んだ失敗談が語られていて勉強になった。
資金調達や収支計画などのお金の面にも触れられていて、これまで読んだ飲食店経営の本の中でもバランスの良い良書だった。
★4(5月)
失敗の本質
前から読もうと思っていたんだけど、最近新型コロナ絡みで取り上げられていたのを見てようやく購入。
文庫本なのに論文レベルの重厚な内容。さすが名著として語り継がれているだけのことはある。
まず日本軍の6つの戦いの詳細が描かれ、これが短い戦記モノのようで面白い。その後のそれぞれの戦いの分析・解説も、色々な分野に応用が効きそうな具体的で有益な内容だった。
この本を読んでわかるのは、日本企業の失敗の構造は、日本軍とまったく同じだということ。
戦前も戦後も日本人の特性は変わっていないということだ。
ただ「日本もアメリカのような組織になるべき」という論調には同意しかねた。
もはやこれは日本人の個性として受け入れるしかないのではないか。そして全否定されている日本の組織にも、アメリカにはない長所があるんじゃないか。
まあそういった色々な考えが想起される点でも有益な本だった。
ナリワイをつくる
評価★★★★☆4
現代日本人の働き方に疑問を投げかける内容。
今は、自分の時間を切り売りしてマネーと交換するという働き方が一般的。その分、生活を自給する力が失われてしまっているのだという。
筆者が勧めるのは、生活に必要なものを自分で作り、その技術を仕事にするという生き方である。
生活コストが下がり、収入も得られるので一石二鳥。
どこか浮世離れしているようにも思えるが、これからの不安定な時代に必要な考え方になる気がする。
自分のことを考えてみると、生活に必要なものを自給する能力も、仕事を作り出す能力も0点である。これからの生き方を考える上で参考になる本だった。
★4(6月)
ピーターの法則
階層社会学なる学問の解説書。
真面目なのかジョークなのかよくわからないところが魅力である。
組織人は能力に応じて昇進していき、能力が発揮できなくなった時点で昇進が止まる。つまりこの社会のあらゆるポストは、能力を発揮できなくなった無能な人間で占められている、というのが「ピーターの法則」である。
かなり皮肉めいているんだけど痛快な内容で面白かった。
無能になるのを避けるためには、上司に無能だと思わせために無能を装う必要があるという。これはなかなかシニカルである。
★4(7月)
また来たくなる外来
いろいろな変わった医学書を出されている國松先生の新作。
やっぱり切り口が面白い。
知識や診療技術に偏りがちな外来診療の中で、あえてファジーな部分にフォーカスした本になっている。
知識や技術ではなければ普通はヒューマニズム的な内容になりがちだが、そこに対するアンチテーゼもあるようだ。「人が好きなわけでも、会話やコミュニケーションが好きなわけでもありません」と明記されている。
システマチックな診断推論と、ヒューマニズム重視のコミュニケーション論の間にあるニッチな部分を深掘するという着眼点はさすがである。
外来診療のコミュニケーションスキルには興味があるので面白かった。
★4(8月)
おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ
評価★★★★☆85/100
サイゼリヤ創業者による飲食店経営のノウハウ本。
こういう本は説教臭かったり、精神論っぽかったりするんだけど、この本は全然違っている。
サイゼリヤが最も重視するのは利益。売上を上げることよりも、無駄をなくして経費を下げることを最優先課題にしているそうだ。
調理は包丁不要で皿に盛るだけでいいくらいに簡略化。テーブルの拭き方までマニュアル化して、どんな人間でもできるオペレーションを作り上げている。
この合理的なスタイルには見習うべき点が多い気がする。
「職員のやりがい」みたいな精神論に持っていかないところに、とても共感できた。
女と男なぜわかりあえないのか
評価★★★★☆85/100
橘玲氏の新刊。やはり安定の面白さ。
今回は進化心理学をベースにした性についての話をまとめている。
痴女は存在するのか?とか、不感症が多いのはなぜか?とか、ある種低俗なネタの数々を論文のデータをもとに真面目に解き明かしていくという、すごい内容になっている。
かつてこんなアカデミックな低俗本があっただろうか(褒め言葉)。
いつもの金融や思想ネタと違って話題が身近なので万人が楽しめそうである。
もっと扇動的なタイトルにしてもよかったと思うけど守りに入ったのかな。
貧乏はお金持ち
評価★★★★☆80/100
もう一冊橘玲本。
内容は会計・ファイナンスで、こちらの方が橘玲本来のテーマと言える。
マイクロ法人の作り方を解説する実用書かと思っていたら、社会の裏側を描くような本になっていた。
格差社会は規制緩和によって誕生したように思われているが、実は違うのだという。経済規模は縮小しているのに、年功序列と終身雇用で給料を減らされない、かつ解雇もされない団塊の世代のせいで若者が割りを食っている、というのが格差社会の真実なのだ。
格差社会は厳しすぎる解雇規制によって生まれている、というのは今まで気づかなかった視点である。既得権益を守ろうとする団塊の世代によって、格差社会は守られてきた。
それならば法人になってしまうのがよいのでは…というのが橘玲氏の主張である。中小零細企業の経営は厳しいと思われているが、実はそれも違うのだという。
会計の詳しい話は難しい部分もあるが、思わぬ社会の裏側が知れて興味深い内容だった。
★4(10月)
銀河英雄伝説研究序説
評価★★★★☆85点
銀河英雄伝説の解説本。
最近旧作アニメ版「銀河英雄伝説」を全部視聴したので、解説本を読んでみた。
ガンダムなどと同じく一般教養になっている銀英伝だが、恥ずかしながら今までみたことがなかったのだ。
いやあ、これは面白いですな。
自分は艦隊戦よりも政治的な駆け引きの方に魅力を感じたが、かなり骨太な作品なので色々な楽しみ方ができそうだ。
この解説本も内容はかなり濃くて、ファンなら絶対満足できるデキになっている。
実際の歴史と銀英伝のストーリーを対比させて解説する第二章なんかは、この物語の奥深さを象徴しているように思う。
アニメの内容込みで評価は85点。
覇王の家
評価★★★★☆80点
徳川家康を描いた歴史小説。
歴史小説は苦手なんだけど、この本は面白かった。
司馬先生は家康が嫌いらしく、頻繁にディスられている。
「妙な男であった」「魅力的な性格は家康にはなかった」「不幸なほどに独創性低くうまれていた」といった具合である。
でも司馬先生の男の美学みたいなものを押し付けられるより、こういう嫌々書かれたようなものの方が面白く感じるのは、ひねくれているだろうか。
家康は野心よりも、強力な生存本能で上り詰めた人間として描かれている。
戦国時代はいつ殺されてもおかしくない時代。殺される相手は敵かもしれないし、味方かもしれない。
生きるためには、まわりに敵をつくらない慎重さが必要である。
そんな時代に、世間体を一番に重視して、ホンネとタテマエを使い分ける巧みさに魅力を感じるのである。
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