好きな映画監督の一人であるデビッド・フィンチャー。
フィンチャーの映画の中で、ひときわ異質な作品が「ファイトクラブ」である。
学生時代にはじめて見たときには、内容がまったく理解できなかった。
いわゆる「どんでん返し」というものがあって、それが印象に残っているが、フィンチャーが描きたかったのは「どんでん返し」なんかではなかったのである。
今回再度視聴したので、物語について考察してみたい。
ファイトクラブのあらすじ
主人公はエドワード・ノートンが演じる平凡な会社員。
彼は高級家具に囲まれて不自由のない生活を送っている。
ところが、なぜか生きている充実感が得られないという悩みを抱えていた。
そんな時にブラッド・ピット演じるタイラー・ダーデンを名乗る男と出会い、殴り合いの秘密クラブ「ファイト・クラブ」の中で生きている実感をつかんでいく。
▼アウトローなブラピがムチャクチャかっこいい▼
以下ネタバレあり
ファイトクラブのトリック
映画のオチは
タイラー・ダーデンと主人公は同一人物だった
という叙述トリックなんだけど、そこに力点を置かなかったのがフィンチャーのスゴいところである。
普通の監督なら、「実は二重人格でした」というどんでん返しを重視した構成にするだろう。
この映画で力点が置かれているのは「消費社会の批判」というテーマ。
物質的な豊かさは、精神的な満足にはつながらない。
主人公が豊かな生活を送りながら満たされないのは、消費社会を痛烈に皮肉っているからである。
ファイトクラブのテーマ
テレビやインターネットをみていると、いろいろなブランドの商品が欲しくなる。
でもそれって本当に自分が欲しいものなだろうか・・?
広告によって、欲しいと思わされているだけなのではないか?
生きている実感が希薄なのは、そんな消費に溺れているからじゃないのか?
我々は、「あなたの欲しいものはこれですよ」とリストアップされた商品の中から、お手軽に選んで消費するだけの社会で暮らしている。
おまえが本当に欲しいのはそんなものじゃないだろ!
そんなものはぶっ壊してしまえ!
というのがファイトクラブのメッセージである。
不必要な消費で満たされた資本主義経済に対する警告。
タイラー・ダーデンは消費社会をブッ壊す使者なのだ。
ファイトクラブのメタメッセージ
さらにこの映画のスゴさはメタ的なメッセージにもある。
フィンチャーは数十億円という多額の制作費でファイトクラブを撮影。
しかし当時まったく客が入らず多額の赤字を叩き出し、制作会社(FOX)を倒産の危機に追い込むことになった。
実はこの結果もフィンチャーの想定の範囲内であった。
撮影前にフィンチャーは「FOXの馬鹿どもが、俺の実験映画に6000万ドルも出すんだってよ」と漏らしたそうだ。
つまり最初から売れるわけがないことが分かっていたのだ。
消費社会の象徴とも言えるハリウッド映画業界で、あえて巨額の資金を使って消費社会の批判をやってのける。
フィンチャーは映画の制作によって、現実世界でも資本主義社会(FOX)をぶっ壊したのである。
最高にクールだと思いませんか・・!
まとめ
このようにファイトクラブのテーマは消費社会への批判である。
しかしこの映画のストーリーには問題が残されている。
それはタイラー・ダーデンは「消費社会を否定するために時間とお金を消費させられている」ということ。
つまり結局は消費社会の歯車からは抜け出せていないのである。
その考え方のベースにあるのは、哲学者ボードリヤールの思想。
次回はボードリヤールの思想から消費社会についてもう少し考えてみたい。
つづく
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