以前、トリックが面白いおすすめミステリーを10個紹介した。
ミステリーベスト10のネタバレ感想シリーズ。
今回は第7位の人狼城の恐怖を紹介する。
人狼城の恐怖は、世界最長のミステリーとしてギネスブックに記録されている作品である。
物語の舞台はドイツとフランスの国境にある双子の城。
2つの城の間には深い崖があり行き来することはできないが、それぞれの城で同時に殺人事件が起こる。
物語は4巻で構成されている。
- ドイツの城で起こる殺人事件を描く1巻
- フランスの城で起こる殺人事件を描く2巻
- 探偵が捜査を行う3巻
- 解決編の4巻
とにかく長いが、ストーリーが面白くて文章も読みやすいので意外と苦にならない。
また解決編では犯行のタイムテーブルがまとめられ、伏線部分のページ数まで記載される親切構造になっている。
人狼城の恐怖のあらすじ
最初の1巻では中世の古城見学ツアーで起こる連続殺人事件が描かれる。
密室殺人や首なし死体など、おなじみのギミックが数多く登場し、古典的ミステリーの趣が強い。
とにかく不可能犯罪のオンパレードで、ミステリー好きにとっては嬉しいところである。
次の2巻の舞台も中世の古城で、こちらでも似たような連続殺人事件が描かれる。
しかし死体に乗り移る殺人鬼が登場し、1巻と違って特殊設定のSFミステリー風になっている。
そして1巻との関連性は謎のまま。
不可能犯罪に加えて、「人外のバケモノは実在するのか」と「2つの事件の関連性」という謎も加わり、スケールの大きなミステリーになっているのが特徴である。
人狼城の恐怖の3つの謎
- それぞれの不可能犯罪の謎
- 人外のバケモノの謎
- 2つの事件の関連性の謎
以下ネタバレあり
ネタバレなしの感想はこちら>>絶対読むべきおすすめミステリーランキング10
人狼城の恐怖のネタバレ解説
3巻の捜査編へ進むと、どうやら人外のバケモノは実在せず、論理的に解明されるミステリーらしいということがわかる。
そして不可能犯罪のトリックが1つずつ解明されていく。
密室殺人のトリックは玉石混交ではあるが、純粋にパズルとして楽しめる部分である。
たがこの小説の一番大きな謎は「2つの事件の関連性」。
この謎を解くカギは以下の3つの疑問。
- 犯人はなぜ離れた2つの城で同時に殺人を行うことができたのか?
- なぜ崖の向こう側の城に人の気配がないのか?
- なぜ殺人の痕跡が完全に消えてしまったのか?
3巻で行われる2つの間違った推理が、これらの謎を解くカギになっている。
推理①
まず「①犯人はなぜ離れた2つの城で同時に殺人を行うことができたのか?」に対する推理は「2つだと思っていた城が1つだった」というもの。
城は2重構造になっていて、2つの事件は同じ1つの城で起こっていたのではないか。
1つの城を2つと誤認させることで、2つの事件を同時にひとりの犯人が行うことができるのである。
さらに②の対側の城に人の気配がないことも説明できる。
これでかなり真相に迫ったかと思われた。
しかし川の流れる方向から、この推理は否定されてしまう。
推理②
次に「③なぜ殺人の痕跡が完全に消えてしまったのか?」に対する推理は「1つだと思っていた城が2つあった」というもの。
つまり城が全部で4つあったという推理である。
被害者たちは、気づかないうちに別の城に移動させられていた。
2つの城を1つと誤認させることで、殺人の痕跡が消えたように見せかけることができるのである。
この推理でも②の対側の城に人の気配がないことを説明できる。
しかしこの推理も否定されてしまう。
ところがこの2つの推理が、謎を解く大きなヒントになっているところが、この小説の優れたポイントである。
人狼城の恐怖のトリック図解
真相は3章で行われた間違った推理「2つだと思っていた城が1つだった」と「1つだと思っていた城が2つあった」との合せ技だったのだ。
城は3つ存在していた。
見えていたのは対岸の城ではなく、第3の城だったのだ。
そして第3の城は地続きになっている。
気づかない間に2グループともに第3の城に移動させられていたのだ。
これによって対側の城に人の気配がないことが説明できる。
2つだと思っていた城が1つだった
第3の城は2重構造で、2つのグループが遭遇しないようになっている。
これによって犯人は同時に2つの殺人を行うことができ、「2つだと思っていた城が1つだった」の側面を持つ。
1つだと思っていた城が2つあった
さらにこのトリックは「1つだと思っていた城が2つあった」の側面も持っている。
気づかない間に城を移動させることで、殺人の痕跡が消えたように見せかけることができる。
このトリックの素晴らしさは、ヒントの出し方の絶妙さにあると思う。
すでに否定された推理が生かされていて納得度が高かった。
まとめ
黒幕が大魔王的な人間だったのはやや陳腐な印象も受けたが、本格ミステリーとしては些細な欠点と言ってもよいだろう。
この地形を使った物理トリックの鮮やかさは、世界最長ミステリーにふさわしいものである。
これだけの文量を読んできたかいがあったと思わせてくれた。
ついでにラストのおまけでSFミステリーとしての決着をつけるところも、サービス精神にあふれていて好印象である。
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