前回は銀英伝の好きなキャラクターベスト5を紹介した。
今回はその中からオーベルシュタインにスポットを当ててみたい。
オーベルシュタインは帝国の参謀長で、帝国の勝利のためなら手段を選ばぬ冷徹非情な人物。
彼の思想が最もよく表れているのが、帝国の内乱・リップシュタット戦役である。
リップシュタット戦役
皇帝の死後、帝国で後継者争いが勃発。
エルウィン・ヨーゼフ2世の皇位継承に反対する貴族たちが反乱を起こしたのだ。
ラインハルトの正規軍10万隻に対し、反乱軍の戦力は15万隻。
しかしプライドの高い貴族たちで構成された反乱軍は統率がまったくとれず苦戦。
さらに戦闘の最中、反乱軍のリーダー・ブラウンシュヴァイク公の領土ヴェスターラントで、民衆の反乱が起こる。
そこでブラウンシュヴァイク公は反乱の鎮圧のため、なんと自分の領地への核攻撃を決定する。
この情報をつかんだラインハルトは、当然攻撃を阻止しようとした。
ところがオーベルシュタインは攻撃を阻止しないように進言。
支配者は、時としてより多くの幸福のため、一部の犠牲を容認する必要に迫られる時があります。初歩なればこそ、原則であり真理です。
核攻撃を行えばブラウンシュヴァイク公は民衆の支持を失い、戦争の終結が早まるからである。
200万人の民衆を見殺しにすることで、結果的に1000万人の人命を救うことができる。
この思想は功利主義と呼ばれるものである。
功利主義とは何か?
世の中では平等が正しいことだとされている。
しかし平等がよいと言いつつも、何をもって平等とみなすのかは難しい問題である。
単純に均等に分けるのが平等だとは限らない。
そこで物事の正しさを、幸福の量によって決めようとしたのが功利主義である。
例えば、りんごが4つあるとする。
そこに空腹のAさんと満腹のBさんがいる。
これをどう分けるのが平等だろうか。
まずりんごを均等に分けてみる。
このとき感じる幸福度を点数化すると以下のようになる。
空腹のAさんは40点の幸福度を感じるが、Bさんは満腹なので5点の幸福度しか感じない。
次に空腹のAさんに多めにりんごを分けると以下のようになる。
この場合はAさんの幸福度は大きく上がり、Bさんの幸福度の低下はたいしたことない。
トータルの幸福度は63点になり、先程よりも高くなる。
このように幸福度を点数化し、より点数が高い選択を行おうとするのが功利主義の考え方である。
平等さを可視化することができるため、非常にシステマチックでわかりやすい。
そのため功利主義は19世紀のイギリスで急速に広まり、当時の政治思想に多大な影響を与えたのだという。
ところがウマい話には裏がある。
この功利主義は大きな問題点を抱えていたのである。
トロッコ問題とは何か?
有名なトロッコ問題というものがある。
線路を走っていたトロッコの制御が不能になった。
あなたがトロッコの進路を切り替えれば5人は確実に助かる。
しかしその別路線でも1人が作業しており、5人の代わりに1人がトロッコに轢かれて確実に死ぬ。
あなたはトロッコを別路線に引き込むべきか?
(wikipediaより)
功利主義的に考えれば、ためらいなく1人の犠牲を選ぶべきである。
しかし冷静にその判断ができる人間はほとんどいないだろう。
功利主義を突き詰めていくと、必ずモラルの問題にぶち当たるのである。
ところがオーベルシュタインはそのような葛藤を抱くことは一切ない。
その分まわりの人間が彼に嫌悪感を抱くのである。
しかし彼は人は他者の評価を求めない。
先天的な視覚障害者である彼は、劣悪な遺伝子を持つものとして旧王朝の処断対象であった。
オーベルシュタインには愛するものも、守るべき家族もおらず、彼が求めるのは旧王朝の打倒と新王朝の発展だけなのである。
自分はちょっとしたことで悩んだり、人の評価が気になったり、孤独に不安を感じてしまう。
しかしそんな一切の葛藤を持たないオーベルシュタインの鉄の心をどこか羨ましく思ってしまう部分がある。
ラインハルトの部下は武士道精神に溢れた人物が多い。
その中にオーベルシュタインのような人物がいることによって、物語に深みが出ているのは間違いない。
まとめ
功利主義については銀英伝だけではなく様々な作品で描かれている。
例えばFate/Zero。
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主人公衛宮切嗣の理想は「戦いのない世界を作ること」。
ところが世界平和のためには、冷酷な暗殺者になる必要があるというジレンマがあった。
彼は美しい理想のために功利主義を徹底し、家族をも犠牲にしなければならなかったのである。
このように功利主義を知っていれば、様々な物語をより深く理解することができるだろう。
哲学まで学べる銀英伝の物語の深さには驚くばかりである。
銀河の歴史がまた1ページ
つづく
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