世の中には無能な人間があふれかえっている。
無能な上司、無能な経営者、無能な政治家。
なぜこんなに多くの無能がのさばっているのか?誰もがそんな疑問を抱いたことがあるのではないか。
その理由を明快に説明したのが「ピーターの法則」である。
銀河英雄伝説から学ぶシリーズ。
今回はピーターの法則について。
▼前回は功利主義を解説▼
ピーターの法則とは
組織の中で昇進することができるのは有能な人物である。
そして昇進後の新しいポストでも有能さを発揮できれば、さらに昇進することができる。
しかし新しいポストで無能であればそこで昇進が止まり、残された日々をそのポストに留まり定年をむかえる。
このように昇進を繰り返していくと、ほとんどの人がどこかの段階で無能に達してしまう。
こうして組織のあらゆるポストは、昇進が止まった無能な人間によって占められる。
これがピーターの法則である。
この法則を知ると誰しも上司の顔が思い浮かぶだろう。
なかなか皮肉の効いた法則で、色々な現象を説明できるロジックである。
どんな有能な人物であっても階層を昇り続けると、いずれは無能に達してしまうのだ。
ジョアン・レベロとピーターの法則
ここから銀英伝の話。
自由惑星同盟の政治家ジョアン・レベロは生真面目で責任感の強い性格の持ち主。
彼は腐敗した政府のなかにあって、汚職に手を染めず社会のために働き続けた清廉な人物だった。
ところが同盟が帝国に敗北したことから運命が変わっていく。
最高議長トリューニヒトが帝国に亡命したためレベロに白羽の矢が立つ。
そのときの同盟には様々な思惑が交錯していた。
そのトップは高度な政治的な駆け引きが必要な難しい役割だったのである。
親帝国派と反帝国派に二分されていた同盟内部。
同盟の存続に固執するあまり、帝国の言いなりになりヤンの暗殺を目論むレベロ。
しかしヤンの暗殺によって反帝国派を抑えるはずだったが、逆に反帝国派の蜂起を呼び起こしてしまう。
(これは同盟内の反帝国派を蜂起させて、同盟領へ侵攻するきっかけをつくるための帝国側の策略だった)
そして憔悴の果てに、日に日にやつれ果てて言動も挙動もおかしくなってゆく。
最後には帝国に寝返ったロックウェル大将によって暗殺され、レベロは生涯を終えた。
優秀な政治家が優秀なリーダーになれるわけではない。
最高権力者には真面目さや清廉だけでなく、駆け引きや裏工作など清濁併せ呑むしたたかさも必要だったのである。
レベロはまさにピーターの法則を地で行く人物である。
それでは我々が彼のような末路を辿らないためにはどうしたらよいのだろうか。
ピーターの処方箋
ピーターの法則には一次予防と二次予防があるのだという。
一次予防
そもそも昇進しなければピーターの法則に陥ることはない。これが一次予防である。
昇進を回避することが幸福への道なのだ。
ところが昇進を断るのはなかなか難しい。
そこで推奨されるのは「創造的無能」である。
創造的無能とは、あえて自分の無能さをアピールし、昇進の話を持ちかけられないようにすること。
しかし無能さをアピールするのは常人にはなかなかできない芸当だ。
我々は承認欲求に囚われがちである。
褒められたい。優秀だと思われたい。そんな承認欲求から自由になり、無能さをアピールできてはじめて幸福になれるのだ。
無能にならないために、無能を装う必要があるというのは中々シニカルである。
これは「嫌われる勇気」のさらに一歩先を行く高度な思想と言える。
二次予防
それでは不幸にも昇進して無能になってしまった人はどうすればいいのだろうか。
無能レベルに達してしまった人は、自分が有益な仕事ができていないことに気づく。
そこで気が滅入ってしまって、体や心の調子を崩してしまうことが多いそうだ。
ここで二次予防が必要になる。
対策は現実から目をそらすこと。
自分の無能さから目をそらすことで、健康を維持し幸福でいられるのである。
具体的な方法は以下の通り。
- 昔の有能だった日々の思い出にふけり懐古主義に陥る。
- どうでもいいことを頑張る。
- 「だれ一人正しく評価してくれる人がいない」「上からはプレシャーをかけられて、仕事のできない部下を押し付けられる」と周りのせいにする。
これらの対策を見て、上司の顔が思い浮かぶ人も多いのではないだろうか。
使えない上司は自分を守り、彼らなりに必死に生きているのだ。
そう考えると、「しょうがねえなぁ」と優しい気持ちで見守ることができるかもしれない。
まとめ
さてここで一つの事実に気づく。
「だれ一人正しく評価してくれる人がいない」「上からはプレシャーをかけられて、仕事のできない部下を押し付けられる」と周りのせいにする。
これはまさに自分のことである…。
かつてはピーターの法則で上司をディスっていたが、気づいたら自分が無能化していたのだ。
ピーター法則の普遍性を感じざるを得ない。
そして自分が無能であることに気づいた人間の末路は悲惨である。
レベロのように心を病むか、現実から目を背けて使えない上司として生きていくか。
いっそ組織から飛び出してしまったほうがいいかもしれない。
そんなことを考える今日この頃である。
銀河の歴史がまた1ページ。
つづく
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